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開発途上国における形成外科治療
©Kazuo Koishi
インフラそのものの立ち遅れ、医療技術の未発展、医療人材と知識の不足、高額な治療費など様々な理由から、発展途上国では形成外科の疾患を負った多くの患者たちが手術を受けることができずにいます。形成外科が扱う疾患の多くは直接、命の危険に関わることがないため、途上国においては形成外科医師自体が少なくその治療は後回しとなっています。
命の危険はないものの口唇裂、口蓋裂、多指症などの先天性の形成異常、火傷などの事故、暴力などで受けた後天的な外見上の障害は身体的機能における不具合のほか、精神面や周囲との関わりにおいても日々の暮らしに大きな影響を与えることがあります。見た目や古い信仰や通説によっていじめや差別の対象になりやすく、学校や地域で十分な社会生活を送ることができないことがしばしばあります。
手術で治る疾患であるにも関わらず、途上国ではそれが叶わないまま人生を送る人々がいます。その多くは子どもたちです。
スマイル作戦では経験と高い技術を有する医師と医療チームを日本から派遣、形成外科手術により傷や疾患の修復を行い、身体機能を回復・改善すると同時に、地域や学校などにおける社会的再統合を支援します。
チームの使命は手術だけにとどまりません。現地の医療者に技術や知識を伝えること、現地医療者の育成もスマイル作戦の大きなミッションのひとつです。
Movie by Kazuo Koishi
ミッションの流れ
1回のミッションで30~80件の手術を行います。ミッション開始から終了までその裏では、実に多くの調整業務や作業が進められています。
ミッションの日程の決定、チームメンバーの選定
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現地の病院との調整、旅程や査証等旅のアレンジ
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器材、薬品の手配
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出発
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到着後、すぐに診察開始
-手術の可否、執刀医、スケジュール、麻酔方法などを確認していきます
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同時に薬品、設備、器材などの確認
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翌日:
手術スケジュールに沿った器材、薬品の準備
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手術開始(1日7~8件)夜:術後診察
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ミッション最終日:
回診、必要に応じて現地医療者に術後処置の指示
備品の確認、パッキング
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帰国
目まぐるしいスケジュールのなか、医療者たちは時間を惜しみながら手術や診察を進めていきます。どの国のミッションにおいても、現地の医学生や医師、看護師らが常に医療チームを取り囲み、その技術を真剣に学ぶ姿が見かけられます。
©MdM Japan
スマイル作戦のはじまり、そして現在
1989年、激しい内戦が終焉したカンボジア。形成外科の専門的な知識や技術を持つ医師が国内に皆無という状況の中、対人地雷で負傷した人々や先天性の形成異常を持つ人々が手術を受けることさえできず放置されていました。「治療」と「育成」を目的とする「スマイル作戦」は、この危機的状況を改善すべく当時、首都プノンペンから陸路で8時間以上(当時)離れた北部の街バッタンバンにある州立病院にて医療支援活動を行っていた世界の医療団のボランティアたちによって立ち上げられました。
その後、スマイル作戦の開始から28年、バングラデシュ、カンボジア、ラオス、モンゴル、ベトナム、ネパール、エチオピア、ニジェール、ルワンダ、マダガスカルなどの多くの国々で約15,000人以上に手術を行ってきました。
日本からは1996年のルワンダ・ミッションへの医師派遣を皮切りに、2006年より世界の医療団(Médecins du Monde:MdM)日本のプロジェクトとして定期的にチームを派遣。これまでに行った手術件数は1,500件を超え、多くの笑顔に出会うことができました。
手術によって本来の笑顔と日常を取り戻す、それがMdMのスマイル作戦です。
©Kazuo Koishi