3つの災害の影響を受けた福島県なかでも相双地域では今もなお多くの困難、帰還に伴う新たな課題に直面しています。急激な高齢化、仕事など役割の喪失、家族分離、帰還する場合、帰還せずとも復興災害住宅に入るなど仮設やこれまで生活していた場所から住み替えすることによる環境の変化、コミュニティの解体、賠償金のあるなしによる軋轢、みまもり機能の低下など様々な要因が被災者のこころにストレスや影響を与えています。
震災関連死者数3,523人うち福島県は2,086人
(復興庁:平成28年9月現在)
震災関連自殺者数162人うち福島県が80人
(内閣府:2015年まで)
加えて病院の閉鎖や休診、地域の医療・保健・福祉人材は不足、被災地の精神科医療はいまだ復興には程遠い現状があります。世界の医療団が協働する「メンタルクリニックなごみ」「相双こころのケアセンターなごみ」は、相双地域においてこころのケアを支える大きな役割を担っており、活動する多くのスタッフもまた被災者でありながら、止むことのないニーズに奔走しています。
「・・・被災地では「自分の3・11」や「あなたの3・11」を語る場面はとても少ない。人口のぶんだけ「私の3・11」があるのだが、それは心のなかに封印されている。
手間暇がかかっても何年かかっても、私たちは「一人一人の3・11」を聞かなければならないのだと思う。被災地の人は、すべての「自分の3・11」を語る権利があり、そして悲しむ権利がある。 ・・・向こう何十年にわたって、震災を語ることが求められるだろう。そのためには「それを聞く人」を育てなくてはならない。」
メンタルクリニック「なごみ」の院長:蟻塚亮二氏と副院長の須藤康宏氏による共著「3・11と心の災害」より抜粋
事故後、南相馬市や浪江町では原発廃炉を求める決議がなされ、また福島県内の自治体すべてが原発への反対決議を採択しました。これらはすべて住民の声を反映したものです。直接的な被災だけにとどまらず、想像を絶するあまりにも多くの負担と困難が住民たちを苦しめ、それは今も解決していません。
家族、友人、職場、学校で、避難や補償を巡って対立と分断が起き、今また帰還で同じ現象が起きています。子どもとともに福島に住み続ける人たちについて、福島から子どもを避難させないという他地域からの批判、また避難先でのいじめ問題、子どもたちの自殺、これらはこころのケア活動を続ける現地の人々、私たちのこころにも大きな暗い影を落としています。
世界の医療団は震災発生直後より、精神科医、看護師、臨床心理士、ロジスティシャンなどからなる医療チームを被災地に派遣し、被災地にて避難所、仮設住宅、自宅、病院などでの精神サポートと基礎医療支援の活動を行ってまいりました。今もなお福島県の相双地域にて精神科医、看護師、臨床心理士などを派遣して、「メンタルクリニックなごみ」「相双こころのケアセンターなごみ」とともにこころのケア活動に取り組んでいます。また川内村では、帰村した高齢者が安心して暮らせる村作りを行政とともに推進する活動を行っています。
この活動に携わる医療ボランティアのそれぞれの声から共通しているのは、住民のニーズを知ること、声を聞くこと、つながりを作ること、一人ひとりの選択と時間を尊重すること、これらを軸にこれからもこころのケアプロジェクトを続けてまいります。治療や活動の裨益を提供するに留まらず、こうした苦しみを可視化し、現状を発信し続け、この問題を風化させず社会に提示し続けていくこと、それが世界の医療団が取り組む「こころのケア」です。
ご支援いただいたすべての皆様に、この場を借りて改めて御礼を申し上げますとともに、引き続きのご支援を心よりお願い申し上げます。
最後に「どうにもこうにもつらすぎて、震災の痛手を受け入れることも、癒すことも、語ることもできないときには、亡くなったあの人との割り切れない思いについてでなくて、今までのあなたの人生のなかで、あなたが一番輝いていたときのことを語ろう。」
(メンタルクリニック「なごみ」の院長:蟻塚亮二氏と副院長の須藤康宏氏による共著「3・11と心の災害」)
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