©Kazuo Koishi

福祉事務所の窓口で: 担当者によってその人が生きやすくなるか、絶望するか左右されてしまう現実があります

森川すいめい医師、そしてホームレス状態にある人々を支援する現場からの思いです


森川すいめい医師

「路上生活に至るまでの間に、こころに傷を負ったり、しんどさを抱えるひとたちがいる。生き延びたひとたちの多くは、肉体的には生活保護を利用して路上生活から脱し生活を立て直すことができるが、こころの傷は、すぐには回復しない。虐待などの暴力の連鎖の中にあったひと、幼少期からの貧困が故に未来をみることができなかったひとなどがいて、彼ら彼女らの中には、将来への希望や生きる意味をもつそのことが困難だと感じているひとがいる。

生活保護の担当者には、親身になって事情をわかろうとしてくれる方もいる。そういう担当者に出会えるだけで、ひとの優しさを感じて、こころが回復していくことがある。しかし担当者によっては、相談者を責めたり、自らの正義を貫こうと上から目線の対応をし、相談者を精神的な窮地にさらに追いやってしまうことがある。相談者にとって、それはとても耐え難く希望は絶望へと変わり得るから、精神的に生き延びるためにと路上へと戻ってしまうひとたちをみてきた。

その分かれ目は本人の気持ちを親身になって聴けるか、生きてきた背景を想像できるかにある。が、福祉の支援が、ひとのこころを想像する相談員の力量の有無に依存してしまう現状にはやるせなさを感じる。本来は人権のことであるからそういうものにしてはいけないものだと思う。権威をもつ側の感情やその人生経験によって、彼らの人生が左右されてはならない。」



森川すいめい氏
1973年、池袋生まれ。精神科医。鍼灸師。みどりの杜クリニック院長。2003年にホームレス状態にある人を支援する団体「TENOHASI(てのはし)を立ち上げ、現在は理事として東京・池袋で医療相談などを行っている。2009年、世界の医療団TP代表医師、13年同法人理事に就任。東日本大震災支援活動を継続。つくろい東京ファンド理事。NPO法人認知症サポートセンター・ねりま副理事。NPO法人メンタルケア協議会理事。オープンダイアローグネットワークジャパン運営委員。
著書に、障がいをもつホームレス者の現実について書いた『漂流老人ホームレス社会』(朝日文庫、2015)、自殺希少地域での旅のできごとを記録した『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社、2016)がある。

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