「政治的、経済的、宗教的な危機が起こるたび、女性の人権が侵害されている現実を突きつけられます。女性に権利が与えられることはありません。女性たちは、一生怯えて暮らさなければならないのです。」
ボーヴォワールによる憂慮は、70年近く経った現在も当時のそれよりも深く共鳴させられるものがあります。ポーランドでは、全面的に中絶を禁止する法案が審議され、ロシアでは家庭内暴力が合法化される法案が成立する見通しとなりました。米国では中絶やそれに関連する情報を提供しないことを条件に連邦助成を行う「グローバル・ギャグ・ルール」が復活、欧州においても中絶反対運動が再燃、こうした女性の権利を迫害する動きは枚挙にいとまがありません。
国際的な場にとどまらず欧州連合においても、中絶の権利、選択の自己決定権についての議論が活発になっています。欧州連合の議長国を務めるマルタは、例外を認めず一切の中絶を禁止する国でもあります。まもなく迎える仏大統領選においては、候補者の中絶に対するスタンスも大統領選の行方を左右する鍵のひとつとされています。
女性のセクシャリティや身体をコントロールする法律、制約や圧力は女性解放の妨げとなり、また望まない妊娠の中絶を決定する際の抑止効果にはなりえません。むしろその逆です。たとえ自らが選択した合法的な中絶であっても、危険な手術による死へのリスクは存在します。今日、性や妊娠に関し自らの意思決定できる女性は、そうでない女性に比べてより健全であり、教育、就労、公的な場への積極的な参加、健康への投資、子どもへの教育が可能な立場にいること、これは既に周知の事実です。
女性が自らの身体に対する自己決定権を持つ権利について、世界の医療団はその重要性をこれまで強く主張してきました。コートジボワールの女子生徒(教師の47%が女子生徒との性行為の経験を持つ)、ヨーロッパを目指し逃れてきたシリア人の母親、ガザの未婚女性、性暴力の被害にあう中央アフリカ共和国の少女たち、安全な中絶にアクセスできないペルーの女性たち(2016年、世界の医療団は危険な中絶手術を受けた1,300人の女性たちの支援を実施)、フランスに滞留する難民たち、、、、そこにある不平等や差別、安全な医療を受ける権利を行使する際の障壁を証言し続けています。
社会が結束し、ジェンダー平等を促進し経済と社会発展の支柱として女性の地位を確立する、そのためには個人、地域、国家いずれにおいても、女性が自由に選択する権利が欠かせません。3月2日、ベルギーのブリュッセルにて約50ヶ国の政府代表者と市民社会が一同に会する”She Decides”カンファレンスが開催され、今後数年かけて市民社会とともに女性の人権向上にむけた取組みが採択されました。これは、より大きな推進力とこれまでにない国際社会のうねりを示す序章に過ぎません。そのような高まりの中で、いかに政治的なコミットメントがより確かなものになるのか、フランスでの動向が注目されています。女性が自身で人生を選択し、生きていく権利、それは人々の健康と開発につながります。政府をはじめとするステークホルダーによる一刻も早い取組みとその実現が望まれます。
世界の医療団フランス理事長 フランソワーズ・シビニョン
世界の医療団フランス アドボカシーオフィサー
アンヌ・シニック