2016年も、残念ながら難民危機が解決を見ることはありませんでした。紛争、圧制、政情不安から逃げるためシリア、イエメン、アフガニスタンなどの国々から非常に多くの人々が欧州を目指しました。長く、劣悪な旅路で健康を損ね、医療から疎外され続けました。世界の医療団はシリアやその周辺国で、トルコやギリシャなどの通過国で、そして欧州各国で、ネットワークをあげて様々な医療支援に邁進しました。
政情の不安、治安の不安、それは私たちが2009年からスマイル作戦チームを派遣しているバングラデシュでも起こりました。2015年から2016年にかけ、同国では稀な外国人を狙ったテロ事件が相次ぎ、合計10名の日本人の方が理不尽に命を奪われました。世界の医療団日本は、派遣者の安全のため2015年から同国への派遣を自粛しています。善良な国民が大多数であり、治安の不安定化を受け以前にも増してニーズが増えているにも関わらず、今、彼らに寄り添い、支援を行うことができないことに深い憤りを覚えます。
国内では4月の熊本地震に際し、子どもたちそして養育者たちの心の健康を守り、復興に力強く立ち向かってもらうため「親子カフェ」と題したメンタルヘルスケアプロジェクトを行いました。精神・心理の専門家のフォローのもと、「被災」という非日常の中で失われてしまった「日常」と「健康」を取り戻して頂くことに寄与することができました。
また、東京で2010年から行っている精神障がい・知的障がいを抱えるホームレス状態にある方々への支援「東京プロジェクト」は、2016年「ハウジングファースト東京プロジェクト」と名前を変え、いまや6団体からなる市民活動組織のコンソーシアムとしての活動を継続しています。路上に住まい、日々の食べるものにも困り、そこにある福祉にアクセスすることができない人々についての社会が抱える問題を提議し、「ハウジングファースト」という一つの解決策を提示し続けています。
国の内外を問わず、現代を生きる私たちにとって、シリアの難民も、東京のホームレス状態にある人々にも目を背けることができません。
どんな状況にあったとしても、誰もが等しく、健康的な生活を送る世界を実現すること、医療が「贅沢」ではなく、誰の手にも届くことのできる世界。これが私たちの掲げている目標です。
2017年、一つでも多くの命をつなげ、一つでもの多くの人生に尊厳と笑顔、幸せを届けることができるよう、一人でも多くの方に同じ思いを共有、賛同して頂き、共に戦うことができましたら幸いです。
皆様の変わらぬご支援を切にお願い申し上げます。
また、皆様にとりまして、この1年が素晴らしいものになりますこと心よりご祈念申し上げます。
世界の医療団日本
事務局長 畔柳奈緒
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