今回は、同地域で世界の医療団が行う研修プログラムとしては最後となる小児診療スキルアップ研修でした。
雨季のため道路は大変な悪路で、まるでトレーニングマシーンのロデオにのっているような状態で毎日何時間も移動。その結果お尻がとても痛くなってしまったという早川医師からの現場レポートです。
今回トレーナーを依頼したノイ先生は、ハノイ大学を卒業した若手の県病院勤務の小児科医で、MdMスタッフともすぐにとけ込み参加者へ積極的に指導してくださいました。また医学知識も豊富でとても有意義な意見交換を行うことができました。
農村部では特に医師が不足しているため、ほとんどのヘルスセンターでは助産師、看護師やメディカルアシスタントと呼ばれるスタッフが中心になって診療を担っています。彼らの医学知識には個人差がありますが、診察スキル向上、そして詳細な聞き取りのうえで十分に説明を行う重要性を全員に理解してもらうため、統一した基礎的研修として、診察場面のロールプレイング、全身診察手技のシミュレーションなどを主としました。IMCI(小児疾患統合管理とよばれ、医療現場では統一された記録フォームの利用が推奨されている)を導入後、記録用紙を埋める作業そのものに目が行き、単に記録穴埋め的な「単純作業型」の診療になりがちな現場で、自ら鑑別診断を行う「思考型」診療への啓発を行うという観点から、参加型研修を重視しています。
日本のように種々の検査ができず薬剤も限られている状況で、適切な治療を行うためには、十分な病歴聴取・診察がより重要となり診断の助けとなります。
ラオスだけでなく海外での医療支援の現場では、日本などの高度医療についてのインプットがなく基礎的な内容に留まる研修への不満はつきものです。しかし、医療施設での薬剤、医療機器などハード面が非常に限られる現状では、彼らが実際に対応不可能な内容をインプットすることに意義は見いだせず、混乱を招くだけです。
また、ある程度の医療知識を既に獲得していても、実際の診療場面では十分に活用できているとはいえず、診察スキルのボトムアップを優先すべきと考えています。
例えば、子どもを診るときには、可能な限り不安・恐怖を与えず泣かせないようにすることが大切で、診察手順としては、一番ストレスを与える口腔内の診察などは最後に行うことが基本です。過去の研修でも繰り返し指導を行い、学習確認テストを行うと皆、理解をしているのですが、実際の診療にはなかなか反映されていないのが現状です。手洗いについてもそうですが、何事も習慣づけられていないことを新たに取り入れ、自然と行えるようになるのには時間がかかりますので、今後も継続した指導・研修がかかせません。
日本は健康に対する意識が高く、「予防医学」の概念も浸透しており、子どもにおける健診や予防接種は一般化していますが、ラオスの農村部ではまだこのような概念は浸透していません。研修に際しては、一番大切なのは「病気にかからないように予防する」ことであることを繰り返し伝え、診療に際しても詳細な病歴、家族歴、生活歴などの聴取をしたうえで適切なアドバイスを行うように促しています。
今回は、マネキン使用や、時には近所の顔見知りの子どもに飛び入りで参加してもらい、ロールプレイングを行いました。終始和やかな雰囲気の中、参加者はノイ先生にも積極的に質問していました。ヘルスセンターのスタッフが県病院のドクターに直接質問できる機会は限られていますので、治療方法や患者への説明などで困っていることなど質問は多岐にわたりました。研修では皆の集中力アップのためにも、そしてリトリートという位置づけのためにも、雰囲気作りがとても大切で、写真のように笑いが絶えないように心がけています。 きちんとした教育を受けた医療人材が豊富ではないラオスで、農村部のスタッフが定期的に研修を受けられる体制を整備するのは容易ではありません。しかし、このような研修システムは彼らのモチベーション向上に役立ち、そしてひいてはよりよい医療が提供でき、子どもたちの健康へとつながります。
6月にはスクマ郡で、今回はムラパモク郡で、研修の間に郡保健局ともミーティングの時間を設け、研修継続の要望があることやその重要性についてお互いに確認しました。
写真上から
17日:ムラパモク郡病院で
18日:早川先生とマネキンで実践
19日:ノイ先生がお手本になります
20日:早川先生は親役で、ヘルスセンタースタッフが診察訓練
21日:子どもに患者役をお願いしました