お誕生日おめでとう、フィラス!今日で1才になりましたね。大きい黒い目、赤ちゃんらしいぽっちゃりとしたほっぺで、初めて話したね。そして、テーブルの端をしっかりと握りしめながら立ち上がった。うれしかったね。 フィラス、あなたは他の赤ちゃんと少しも変わらない。 でも、あなたの誕生日はこれからもずっと、少し特別。あなたは1年前の2014年7月8日にカザに生まれた。それは爆撃が始まった日だった。
あなたが生を受けてから最初の51日間で、ガザ地区の2,132人もの人が戦争で命を落とし、うち501人はまだ子どもだった。12,400戸の家屋が破壊され、その中の一軒はあなたの両親の家だった。爆弾が降り注ぐ中、お母さんの不安、お兄さん、お姉さんたちが苛まれた怖い夢、そしてあなたたちをどうやって守ったらよいかさえもう分からなくなっていたご両親の恐怖や憤りから、あなたは幼すぎて苦しまなかったと信じたい。あなたが何一つ覚えていないと信じたい。でも、そんなこと、誰にも分からない。
1才の誕生日を迎えたけれど、家はまだない。あなたの家族と同じように、新しいおうちを待ちながら17,600もの家族が、今もキャラバンやテントなどの仮設住居で暮らしている。あなたが忘れてしまわないように、家族のテントには家の名前とかつて住んでいたお家の写真が貼ってある。
あなたの年齢では、きっと何が起こっているのかわからないでしょう。けれど、私たちは心配しています。あなたが住む場所は封鎖されています。あなたが言葉を話すようになればすぐに、間違いなく何度もこの言葉を聞くことになるでしょう。封鎖という言葉は日常のあらゆるところで、あなたの生活に影響を及ぼしている。たとえ戦闘が止んだ今になっても、外部から建設用の資材を持ち込むことは難しいまま。あなたが保育園に通う頃までに、保育園を建てることができるのか?あなたが病気にかかった時、病院は再建しているかしら?あなたが飲んでいる水が清潔ではないこと、1日8時間しか電気がないこと、それにお薬が必要になった時に手に入れられるかもままならない状況を、封鎖は引き起こしているの。あなたの年齢では、きっと何が起こっているのかわからないでしょう。けれど、私たちは心配しています。
でもね、フィラス、そんな心配の中でも、一番私たちが心配していることは、あなたが質問するようになる頃、どうやってあなたに全てを説明してあげられるか、ということなの。あなたの初めてのお部屋を作る為の材料を持ってこようとするだけで、とても複雑なシステムを考え出さなければならないほどに、あなたが暮らしている場所にはとても多くの制限があって、だから、あなたには家がないんだってことを、私たちはあなたに説明しなければならないの。
ガザを離れることは許されない。たった60km先の西岸地区に住む親族に会うこともできない。境界線の近くでは遊ばなければ、銃弾を受けずに済む。最近の戦争で残された不発弾があるかもしれないから、破壊されたビルの瓦礫の中で遊ぶことはできない。封鎖が始まってすぐに何一つ輸出できなくなったことで、お父さんの会社が破綻したことも、いずれお父さんの口から聞くことになるでしょう。そのことをあなたに話す時、お父さんは悲しい気持ちになる。でも、あなたはお父さんをつらくさせるその理由を理解しなくてはならないのです。仕事がなくなるということは、1人の男性として、プライドと彼の心に重くのしかかるのです。44%というガザの失業率は、世界で最も高い。こうしたことをあなたが理解するのに、そう時間はかからないでしょう。でも、あなたはほどなく理解する。
8年前、人と物資の行き来が一切できないように、ガザは封鎖された。GDP(国内総生産)は50%以上急落し、過去6年間で3回の戦争が起き、ガザの人口のうち80%が国際援助に頼り、39%が貧困ラインを下回る生活をし、70%の人々は食べるのにも困っている。あなたのような子どもにはこの数値だけでいっぱいいっぱいだよね。でも、慣れておいた方がいい。なぜならガザの封鎖が語られる時、いつだって数字が一緒にあるから。でも、フィラス、当事者であるあなたはそれらと一緒に生きていかなくてはならないの。
フィラス、私たちはあなたのお誕生日をお祝いしたかったの。あなたがなんだかおかしいと思っているのは分かっている。その通り、私たちは支援団体で、私たちに出来ることはすべて、これからもあなたのために続けていきます。様々なことがあったけれど、ガザの人たちの再生しようとする力、適応力そして処理能力に、一人の人間として感嘆しています。あなたも将来、お父さん、お母さん、お兄さんやお姉さん、そして周りの人たちのようにたくましく強い決意をもつようになるでしょう。
フィラス、私たちを悩ませているのは、あなたたちが耐えていることは決して運命ではないということなのです。イスラエルによって、ガザは封鎖を強いられることになりました。それは”集団に対する処罰”です。女性や子どもを含む全ての一般市民に及ぼす影響を考えれば明らかです。 生まれた土地によって、不当なペナルティを被ることがあっては断じてならない。どんな安全保障上の理由をもってしても、あなたたちがこのような生活を送るようなことは正当化されません。そして何より、この状況で誰一人として安全になったとはいえないことに、ずっと前から私たちは気がついていました。戦争は繰り返し起こり、砲火を交えることと監視の頻度には明らかな相関関係はなく、双方で高まる不満が安定への秘策になることはないのです。
フランスは、イスラエルとパレスチナの和平交渉の再開を望んでいます。パレスチナといったとき、ガザももちろん含まれています。フィラス、あなたがたの最も基本的な権利を尊重することなく、どうやって和平を目指せるのでしょうか?軍隊に包囲され、身動きのできない土地に閉じ込められたパレスチナの3分の1の人々の基本的人権を尊重することなく、どうしたら?
OK、フィラス、そろそろ作り話は終わりにします。あなたは実在しない。あなたはガザにいる一歳の誕生日を迎えた子どもではなく、私たちが欧州の人々、そしてすぐにでもあなたの未来を計画する政治指導者たちに伝えかった、ガザに閉じ込められた何十万もの子供たち。数字や統計の向こうにあなたたちがいることを知り、そしてきちんと考えてもらいたい。ずっと願っているガザの封鎖の解除と持続可能な再建を促すために。