11/15 AM8時。我々が形成外科手術を実施するGK病院2階の廊下には、容易に往来もできない程の人だかりがあった。情報を聞きつけ病院まで何時間も歩いて辿りついた人、片手で幼児の手を引き、もう一方の手で治療を待つ赤ちゃんを抱く小柄で細身のお母さん、1人の少年に家族全員で付き添う大人数の集団。診察を待つ患者、その付き添いの家族、全く関係のないと思われる人。とにかく人、人、人でごった返していた。
初日の診察は、この人だかりが1人残らずはけるまで続いた。診察室では患部の写真を撮影し、3~4名の形成外科医で手術方針についての相談がなされた。麻酔科医も同時に診察し、麻酔をかける上で重要となる体重の測定も合わせて実施された。2室しかない手術室、麻酔が効くまでに要する時間、執刀医の組み合わせ、手術にかかる時間など複雑に相互に絡み合う項目を考慮しつつ、手術のスケジュールが組まれる。その光景はまさにパズル。
翌日、朝8時から手術は始まった。停電は日常茶飯事、待合室にいるはずの患者が手術直前になって見当たらない…など、支援の現場ではスケジュール通りに事が運ぶ方が珍しい。予定していた12件全ての手術を終え、片づけと明日の準備を終えた頃には23時を回っていた。2日目。遂に最後まで現れなかった患者1名を除き、10件の手術を実施。3日目 6件、4日目7件、5日目 10件、6日目 4件と手術は続き、計49件の手術が実施された。朝から晩まで実施される手術に立ち会い、私は何度となく奇跡の瞬間を目の当たりにした。裂けていた唇がきれいに閉じられた瞬間、6本あった指が5本に戻った瞬間、出口手前で漏れだしていた尿が正常な位置から出るようになった瞬間、火傷でひっついてしまっていた皮膚がきれいに剥がされ機能を取り戻した瞬間…。
麻酔科医の実施する麻酔、形成外科医の実施する手術、それをサポートする看護師、彼らの仕事は日本であろうがバングラデシュであろうが、有償無償に関わらず大切な子どもの命を預かり、心配して待つ家族の期待に最大限応えるというプロフェショナルな仕事に他ならない。その事実を前に、私は現場で活動するボランティアの方々にこの質問をせずにはいられなかった。「日本で活動をしたら収入が得られるが、どうしてスマイル作戦に参加して無償で活動をしてくださるのか」と。
形成外科医 山田信幸氏はこう答えてくれた。
「参加しないというチョイスはないと思っていますけど…」
腑に落ちた言葉だった。実際に現地で手術を必要としている人たちと出会ってしまったら、「参加しない」という選択肢などなくなってしまうのだと思う。ましてや、次回のミッションで手術をすると伝えた子どもも少なくない。私も現地で実際に患者を目にし、「ニーズがある限り支援を続ける」それ以外の選択肢などないのだと強く感じた。
形成外科医 森岡大地氏はこう答えてくれた。
「これまで何度もスマイル作戦に参加していますが、道具があれば、自分の知識がもっとあれば…など様々な理由で、課題が残る手術が必ずあります。手術はうまくいって当たり前です。今度こそはもっとうまく手術してやる!そう思って、私はこのミッションに継続的に参加しているのでしょうね。」
彼の謙虚さに感服し、深い感謝の気持ちからあふれ出る涙を私は抑えることができなかった。
「ニーズがあり、活動を希望してくださる人材があり、活動を可能とする資金がある限り、支援を続ける」 それが私たちの使命なのだ。
何人もの患者の笑顔に立ちあい、何度となく目撃した奇跡の中でも、2日目に手術をした両側口唇裂のJohan(2歳)は一番印象に残っている。たった数日でここまで大きな変化がもたらされたのだ。
スマイル作戦の現場では、十分ではない道具と環境の下、朝から晩遅くまで休むことなく患者にとって最善だと思われる手術が次々に実施された。今回はチームを2つに分け、ダッカでの活動を継続しながら南部の都市コックス・バザールでも計4日のパイロットミッションを実施し、24件の手術がおこなわれた。私はダッカに残るチームに同行したのだが、スマイル作戦の同行を終えた今、100%の自信をもって断言できることがある。それは、「支援者の皆さまから頂戴した大切な資金は余すところなく活動に活かされている」ということだ。
世界の医療団
ファンドレイジングマネージャー
関麻衣
末筆になりますが、皆さまからの一方ならぬご厚情にここに深く感謝申し上げます。
また、今後とも変わらぬご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。