2024年度活動報告会「混迷の時代のNGOの活動」を開催しました

3月5日の夜、世界の医療団 2024年度活動報告会「混迷の時代のNGOの活動」をオンラインで開催しました。第一部ではNGO業界をけん引されてきたTHINK Lobby所長の若林秀樹さんをお招きし、「市民の自由な活動を取り戻すために」と題して、「混迷」というべき世界情勢のなかでの市民社会の活動スペースの狭まり、そしてその打開について語っていただきました。第二部は、そのような状況のなかで2024年度に世界の医療団が世界各地で行った医療支援について、各担当者から報告しました。

第一部で若林さんは、トランプ政権発足後、USAID(米国国際開発局)の解体、WHO・人権理事会脱退、パリ協定からの離脱、移民の排除、DEI(多様性・公平性・包摂性:diversity, equity, inclusion)に関するプログラム撤回、関税など、これまで自由と民主主義、法の支配を守り、それを重視しない勢力と対峙してきた国ではありえないことが今行われていると指摘。国際援助資金の削減はヨーロッパ諸国でも起こっており、NGOは大きな影響を受けると懸念されました。また、日本は比較的自由な国と位置づけされているものの、市民の活動が制約を受けた事例を紹介。市民の自由な活動を保障する日本国憲法には「公共の福祉に反しない限り」という抽象的な表現があるために、裁量的な判断がなされる可能性があると指摘されました。そのため、市民の自由な活動や権利を保障するのは国家であるものの、私たち自身も自由な活動ができているかチェックし、もしそうでないのであれば、意見表明をして社会に訴える責任がある、そして平和で公正かつ持続可能な未来を実現することは政府だけでなく我々の責任でもあると述べられました。特に持続開発目標(SDGs)のゴール16「平和と公正をすべての人に」は、SDGsの他の目標の前提であり、市民社会として、常に守られているか注視する必要があると言及されました。また、Civicus Monitor 2024では、世界総人口の72%が何らかの抑圧がある国に暮らし、30%は完全に閉ざされた国に住んでいること、アジアでは日本と台湾のみがオープンな国とされていることを紹介。市民の自由な活動の前提には世界が平和であることが必要で、権威主義的政権、独裁政権、軍事政権が誕生しないように、私たち自身が常にチェック機能を果たしていく必要があると述べられました。国連のガバナンスが機能しておらず、国連安保理で拒否権を持った国が自国の利益のために動いている現状に対し、多国間主義へ回帰し、国際協力と持続可能な開発目標を実現させていくことが必要だと強調されました。そして、私たちNGO、市民社会の活動としては、国内外の様々なセクターと協議し、連帯を強化していくことが必要であると述べられました。

若林さん
第二部では、事務局長の米良より、世界の医療団の活動国は、若林さんが紹介されたCivicus Monitor 2024で完全に閉ざされているか、ほぼ閉ざされた国に該当していると述べ、1年の活動を象徴する数字をもとに振り返りました。そして、スタッフ全員が誰かしら家族を失い、9割が家を追われたガザでの活動を紹介。また、日本で元日に発生した能登半島地震支援では、言語や文化の壁に直面した在留外国人支援について紹介しました。

次に海外事業プロジェクト・コーディネーターの中嶋より、バングラデシュでの洪水被災者支援とウクライナでの緊急医療支援について伝えました。バングラデシュの支援では動画で当時の様子を伝えるとともに、気候変動の影響は、温室効果ガスを多く排出している高所得国ではなく、排出の少ない低所得国を直撃していることも伝えました。ウクライナでは前線に近い地域にも移動診療車で診察に赴き、高齢者や慢性疾患を抱えた人々に医療を届けていることを動画とともに紹介しました。
続いて中嶋からロヒンギャ難民コミュニティ支援について報告しました。現地で喫緊の課題になっている高血圧や糖尿病などの非感染性疾患対策として、2024年度はがんや心理社会的支援も含めた包括的な予防対策事業を実施しました。ただ、ミャンマーで戦闘が激化し、8万人が新たに難民となって流入。バングラデシュ政府が受け入れを拒んでいるため、医療や食料といった基本的なサービスにつながることができず、急遽、診療用カードを作って配布し、支援につなげていることを伝えました。


ロヒンギャ難民コミュニティ支援発表スライド
続いてラオスから、プロジェクト・コーディネーターの小川亜紀が地域医療強化プロジェクトとスマイル作戦について話しました。地域医療強化プロジェクトでは、妊産婦死亡率と5歳未満児死亡率の高い山岳地帯で健康教育とワクチン接種を実施。妊産婦健診や施設内分娩、ワクチン接種の率が改善したことを報告しました。また、日本の医師らが開発途上国で形成外科手術を行うスマイル作戦では、ラオス北部の拠点病院で4件の手術を成功させ、現地の医療従事者に日本の医療技術や知識を伝えました。患者からの喜びの声も紹介しました。

ラオスでの活動報告スライド
世界の医療団からの活動報告のあと、若林さんから「現場の状況が非常に生々しく伝わってきて、大変な中で活動されている皆様に敬意を表したいと思います。世界各国からの援助が減っているなかで、日本のNGOがどういう役割を演じていけるのか、その重要性も改めて感じました。国際協力を推進していく立場としては、持続可能な社会に向けて取り組んでいくとともに、国際協力の重要性を発信していかなければならないという思いを新たにしました」というコメントをいただきました。

その後、質疑応答の時間を設け、最後に私たちにできる支援例について紹介しました。

質疑応答


気候変動が起きるなかで、どのように活動の多様性を確保できると考えますか?

たとえば水害が起きて地方から都市に移り住むと都市の人口が集中し、衛生状態や、食料調達の課題が出てきます。また、気候変動によって生態系が影響を受けると、人と野生動物との接触の機会が増えて感染症が引き起こされるリスクが高まります。気候変動は水、食料などに様々な影響を与えており、「プラネタリーヘルス」という人間だけでなく動植物全体の生態系の健康を考えるべきという概念が提唱されています。医療システムをしっかりと構築してレジリエンスを高めつつ、緊急事態を想定して救急的に対応していく必要があります。課題は尽きません。(中嶋)


世界で多くの紛争や災害が起こっているなかで、どのように活動先、活動テーマを決められているのでしょうか? 日本事務所はアジアの対応が多いのですか?

世界の医療団は17ヶ国に拠点がありますが、アジアの拠点は日本だけです。今までの日本との関係性などでアジアの支援が多いです。ウクライナでも支援していますが、日本から人がわざわざ行かなくても、現地で長年活動している世界の医療団のネットワークと連携することで、地域に根差した活動を行います。活動テーマについては、緊急事態が起きた際、17ヶ国でどこがどう対応していくか話し合って決定しています。(米良)


紛争や災害の状況が悪くなれば難民や移民が増えますが、できるだけ故郷に残って幸せに暮らせるようにするためには、世界の国やNGOのどういった働きかけが必要ですか?

我々市民社会ができることは、それぞれの国の政治システムに関わらず、国境を越えて連帯し協力していくことだと思っています。市民社会として共通の価値観を持ち、政治的に対立している国の市民社会ともいろいろ話し合い、学び、共有しあうことが大切ではないでしょうか。どういう支援が必要かはその国の人々が決められるはずなので、国境を越えて市民社会が連帯し、それぞれの国の政府へ働きかけ、国連にも働きかけ、多国間主義に基づく本来の国連の活動に回帰させる必要があります。何のために国連があるかといえば、最終的に一人ひとりの幸せのためですので、我々自身が意識を持って行動していくことがベースにあるべきだと思います。(若林さん)


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