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ジャーナリスト玉本英子さんとの写真展「ウクライナ―戦火に生きる人びと」開催報告―多くの方に来場いただき、戦争下に生きることについて考えていただきました

10月22日(火)~27日(日)、東京・北青山にあるナインギャラリーにて、ジャーナリスト玉本英子さん(アジアプレス)との写真展「ウクライナ―戦火に生きる人びと」を開催しました。

2022年2月にロシアのウクライナへの侵攻が始まってから2年半以上がたちますが、未だ戦争は終わる見込みが立っていません。世界の医療団は前線に近い東部も含むウクライナで、医療につながれない人々を支援してきました。ウクライナの人びとについて伝える報道が減っている今、戦争のただ中にいる人びとの姿を伝えることで、改めて戦争について知り、考えていただこうと企画しました。

玉本さんは2022年のロシアによる侵攻以降、3回にわたってウクライナに行き、現地の人々を丁寧に取材されてきました。これまで関西を中心に各地で写真展を開催されていますが、東京では初めてです。会場では世界の医療団のウクライナでの活動-医療資機材の提供、移動診療車での診療、病院補修、医療従事者への研修など―を伝える写真やパネルも展示。また、ウクライナの豊かな文化の一端を知っていただこうと、日本ウクライナ友好協会KRAIANY(クラヤヌィ)の協力によって、アンティークの伝統衣装や、お守りのモタンカ人形も展示しました。さらにウクライナ避難民の方を講師に、モタンカ人形作りのワークショップも開催。また、土曜日には玉本さんと世界の医療団の海外事業プロジェクトコーディネーター中嶋とのギャラリートークも開催しました。会場いっぱいになる多くの方に参加していただきました。

会場には約40点の玉本さんの写真を展示しました。幼い同級生を失って花を手向ける子どもたちや、空爆を避けて地下鉄の構内を教室替わりに授業を受ける子どもたち。「何か欲しいものある?」と尋ねると「平和な空が欲しい」と答えたといいます。また、にっこり微笑むウクライナ軍の隊長の写真の次には、10か月後棺に納められた姿がありました。娘夫婦を失って泣き叫ぶことすらできずに無表情にたたずむ女性の姿や、失った父の写真を手に必死で涙をこらえる少女、夫が戦死したものの補償を受けられずに途方に暮れる女性の姿、墓標の数が増える一方の色とりどりの花が手向けられた墓地など、戦争下の人びとの姿を克明に捉えた写真がありました。その一方で、K-POPのダンスやアニメのコスプレをする若者の姿もあり、「こうして自分の好きなことをやり続けることが自分たちにとっての戦争への抵抗なんだ」と話したそうです。戦争中であっても今日も明日も生きていかなければならない人びとの強くたくましい様も伝えていました。

今回の写真展は新聞やNHKで紹介されたこともあり、多くの方が新聞やテレビを「見たよ」と行って足を運んでくださいました。玉本さんも「会期中はできるだけギャラリーにいます」と在廊していただき、来場者の方々に丁寧に写真の解説をされました。

参加者のみなさんは、厳しい現実に胸を締めつけられたり、何かできないかと自問されたりしています(下記に感想を紹介)。現在も、心身ともに傷つき、困難な状況にある人々への外部からの支援も必要です。世界の医療団は医療保健サービスへのアクセスが限られた人びとに対して、巡回診療や心理カウンセリングを行い、約30の病院に医療資機材を提供し、また、病院を補修し、医療従事者への研修を提供しています。こうした支援が戦争を終わらせるわけではありませんが、世界の人々が決してウクライナの人々を見捨てていないとのメッセージを伝え、彼らが身体と心の健康を回復し、保っていくことをサポートしています。



外苑前駅から徒歩3分のナインギャラリーで開催。写真には詳細なキャプションがつけられているが、さらにその写真を撮影した状況や撮った方の様子、語られた言葉について説明をする玉本さん


会場にはアンティークのウクライナの伝統衣装やモタンカ人形も展示し、ウクライナの豊かな文化にも触れてもらう機会に


ウクライナからの避難民支援につながるモタンカ人形ワークショップ。先生からは「こころに楽しいことを思い浮かべながら作っていただくのが大切なポイント」と説明が。色とりどりの個性豊かな人形ができ上った


参加者で会場がいっぱいになったギャラリートーク。世界の医療団の中嶋が現地での支援や紛争による課題について説明し、玉本さんは取材された現地の状況を紹介。「今起きている戦争について知ることは、自分自身の未来を見据えることにつながる」と玉本さんは締めくくった(関連記事:ドットワールド/ジャーナリストの玉本英子さん「同じ時代を生きる人々に心を寄せる」


ジャーナリストの江川紹子さんや、女優の中越典子さんも親子で来場され、説明に耳を傾けてくださった

写真すべてⒸMdM Japan


参加者の感想から


紛争地域で命をかけて取材されるエネルギー、どう言葉にしてよいか、すごい、の一言です。「戦争で死ぬために我が子を産んだのでしょうか……」という一枚の写真、「心を強く」との思いから取材中涙を見せなかった少女、印象に残りました。

自分たちと変わらない普通の暮らしを送っている市民が、一瞬にしてそれを奪われる様子を見て、本当に言葉が詰まる思いを感じました。子どもたち、若者、父、母、祖父、祖母、男性、女性、それぞれの夢や希望が断ち切られる。けれど使えるスペースや時間を学びや習い事にあて、“日常”を過ごす力におどろかされました。

普通の日常生活が戦火により一瞬にして戦場と化すことが大変よくわかりました。“文章”とは違う“写真”の力を感じました。

テレビやネットニュースなど、報道する内容として、ウクライナだけではなく世界の様々な地域であってはならないことが日々起こっています。人はそれぞれ生まれ育った縁(ゆかり)のある人の中で幸せな人生を送る権利があると思っています。平等、平和、平穏、それらを享受できない側に、いつ私達日本人もなってしまうかもしれません。一個人が何か役に立てるのだろうか…と思いつつ、まずは知ることがから始めようと今日はうかがいました。

大学でロシア語を学んでいたこともあり、ウクライナとロシアの戦争については関心を持つと同時に、心を痛めていました。子どもたちのトラウマ、傷つきが本当につらいです。おばあさんの顔が、私がロシアに留学していたときのウクライナ系の先生にそっくりでこれだけ民族的にもいろいろな意味で近しい人たちが戦い、傷つけあうことの悲劇を思います。そういう中で男の子が楽しそうに先生と勉強している写真が好きです。素晴らしい先生なのでしょうね!!

ニュースに上がる数字の裏には一人ひとりの人生があることを改めて感じます。つい最近会った人が次には亡き人になっているというジャーナリストの方が経験される感情は想像するに余りあるものと思います。

息子を持つ母として現地の戦場の警察、兵士一人ひとりの命の多さをさらに痛感した。母や妻の苦悩は察するに余りある。各国のリーダーたちも無垢な少年時代があり、愛する家族もいるだろうに。圧倒的多数が平和を祈念しているはず。なぜ実現がこんなに困難なのか……。

地下シェルターに並べられた生徒たちの机と椅子の写真について、親や家族のことが不安になって泣き出したり叫び始めた子供達に対して、校長先生がどうしていいか分からず困惑し泣かれたという玉本さんの現場の話を伺い、言葉にし難い感情が込み上げました。また、瓦礫と化した病院や妊娠した娘を亡くした母の写真なども印象に残っています。私自身、子を持つ親として、胸が締め付けられる思いがしました。戦争がもたらす痛ましい現実を改めて容赦無く突きつけられました。現場の様子を知る一つの機会として、非常に貴重な機会となりました。

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