スマイル作戦2014・マダガスカル現地レポート

今年のマダガスカルのミッションは波乱含みで始まった。接近した低気圧の影響なのか、経由地の香港は空模様が不安定で、ひっきりなし光る稲妻と時折響く落雷で飛行機は遅れに遅れ、午後11時の機内への搭乗は午前3時を超えた。深夜の機内食に食欲は無く、ひたすらシートの寝心地の悪さを感じながら、赤道を越えて13時間の旅となった。

スマイル作戦2014・マダガスカル現地レポート
真夏の東京から真冬のヨハネスブルグに到着した時は、マダガスカル行きの乗継便が出る、15番ゲートはすでに閉鎖されていて、荷物として預けた医療器具を一旦取り出すのか、寝るのはゲートのイスかしらと想像しながら手続きカウンターの長い列に並んだ。

そこから事態は好転。空港内にあるホテルでの宿泊と相成り、預けた医療器具は取り出す必要もなく、バスタブでゆったりと旅の疲れを癒すことができた。翌朝のフライトまで、しばし至福の時間となった。

アンタナナリボの空港には現地での患者の選別、手術の段取り等を担ってくれる小児科医のニボが待っていてくれた。税関での煩雑な手続きを瞬時に済ましてくれて、ようやくいつものやや肌寒いマダガスカルの冬の景色に溶け込んだ。

フランソワ・フサディエ医師を中心とするマダガスカルでのスマイル作戦が始まったのは2005年、夏。来年で10年目を迎える。最初のメンバーはフサディエ医師の他に、形成外科医のフレデリック、麻酔科医のジェラールと看護師のポーレット、それと私を含めた計5人のメンバーであった。それぞれがルワンダ、カンボジア、エチオピア等でのミッションの経験が豊富で、気心しれた友人達である。

本来スマイル作戦のイメージになっているのは唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)を持つ患者である。これは上口唇に皮膚、上顎・口蓋骨の欠損をもつ。これらの部位に組織の欠損があると、機能的に「笑い」特に「ほほえみ」が作れない。唇が左右に広がり特異な表情となる。笑いを表現できない顔は社会生活において大きな欠点となる。特に隣近所の交流が密な途上国では、周囲の仲間からの差別や拒否は、本人のみならず家族にも向けられる。結果、村社会から排他されることも生じる。貧しい国における最も大きな財産は遺伝子の優位性となるからだ。それを手術で改善し,微笑が作れるようにしてあげる。これが「スマイル作戦」の目的だと理解している。


スマイル作戦2014・マダガスカル現地レポート
この疾患の原因には、環境要因(母体の栄養失調)、染色体異常(約10%)遺伝要因(約10%)と言われているが多くは、原因不明(約70%)であり、はっきりとしていないのが現状である。唇裂口蓋裂の発生頻度は,日本・欧米とも500~600人に1人で、身体の外に見られる体表奇形としては,日本では(おそらくフランスでも)最も頻度が高いと言われる。

従ってつたない手術をしてはいけない。日本であるいはフランスで行う専門医のレベルを踏襲し、可能ならばレベルアップを行いたい。しかしそれがまた難しいのだ。とても独学で結果が出せる手術ではない。長い経験と疾患に対する局所の解剖学の熟知、成長するにつれて生ずる咬合や発音の変化に対し対処が出来なければならない。口腔外科の協力を仰ぐことも多い。従って現場では治療の経過、その後の変化など記載が必要とされる。やりっぱなしではいけないミッションである。出来るだけスタッフを代えずに行う意義がそこにある。われわれスタッフもまた、学び、対応し、次の世代を育てていかなければならない。そうは言っても現場はいろんな事が起こる。無事に手術を終了させ覚醒させるまでは気が抜けない。

今年は顔の広いフサディエ医師がジョン・ミッシェル医師をミッションに招待した。彼は唇顎口蓋裂の専門で教授職を離れたが、唇裂に対する繊細さ、立体的な捉え方は白眉であり、私にとっては新鮮であった。彼の術式、メスの扱い方、術後の管理と豊富な知識はシンプルで自然な口唇を作成した。有能な教授に備わっている特質として教え方が的確で丁寧であり良い勉強になった。実に素敵な手術であった。この2年、ニジェールから参加しているイサはむしろスタッフと呼んでもいい。よく気が付き学ぶことに貪欲である。


スマイル作戦2014・マダガスカル現地レポート
ボランティアの分類にはいくつかあるが、シンプルにわけると公衆衛生(予防医学)と技術供与(手術等)に分けられる。津波や地震に対する対応は生活物資の補てんや衛生管理であり如何に能率よく機能させるかが課題となる。参加する人達は簡単なマニュアルで対応でき、メンバーの入れ替えで能率が落ちることはない。一方特殊な技術供与では結果が悪いとボランティア自体が立ち行かなることも出てくる。スタッフ同士の信頼関係が強く簡単に入れ替えが利きにくい。しかしながら一人の治療の結果が家族、ひいては所属する社会での評価されるとき、患者を取り巻く多くの人たちが喜んでくれるのではと期待したい。

2014年 8月 マダガスカルでの「スマイル作戦」
与座 聡

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