「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー

日本とラオスの健康に対する住民の意識の差や、医療サービスなどの差を日々感じながら、世界の医療団のボランティア看護師として、ラオス小児医療プロジェクトに携わっている木田晶子看護師のインタビューです。

「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー
◆世界の医療団に参加したきっかけ

元々海外で仕事することに興味があったので、自分の仕事を活かしながら海外で働けたらと思い、まずはボランティアとして2年間、ラオスで働きました。しかしできることが限られていたこともあり、やりたいのにやり残したという思いもありました。NGOならもう少し幅の広い活動ができるのではないかと思い、世界の医療団からお話を聞いて、チャレンジしようと思いました。

もちろん迷いや不安もありました。世界の医療団の活動は日本とフランスで協力しながらやっているプロジェクトなので、英語のコミュニケーションが基本となります。当時はあまり英語が得意でなかったので壁がありました。でも英語を使って仕事することによって英語スキルもアップできるし、仕事ができるように頑張りたいと思いました。また、ラオス人だけではなく多国籍の人と一緒に働けるのも魅力的だったので、なんとかなると思いました。周りの家族や友人は心配してくれます。特に父親は「お前、なんで日本じゃあかんのや」と言います。今では私の仕事を認めつつ、止めてもだめだと半分あきらめているようです(笑)。

「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー

◆現地での活動内容をお聞かせ下さい。

私達はチームで活動しています。一日の活動は、朝6時に起きてごはんを食べて7時半から各村に向かいます。村のヘルスセンターに着くのが9時、それから11時半位までスタッフの指導やアドバイス、掃除等を行い、昼食を取って午後も2時間位活動します。3時位に車に乗って戻り5時に終了します。その後チームと一緒にごはんを食べて9時位に寝ます。日の出とともに起きて日の入りとともに眠る生活です。

患者さんに対して、私は日常会話程度ならラオス語でコミュニケーションがとれるので、まずラオス語で話しかけて、スタッフが何を質問するのかを観察します。質問で足りないところがあれば、「これも聞いた方がいいんじゃない?」といったフォローをします。コミュニケーションが難しい会話はアシスタントを通して聞いたり言ってもらったりします。


◆一番印象に残っていることはなんですか。

これは最近の話ですが、村で心肺停止になった子供がヘルスセンターに運ばれました。しかし、ヘルスセンターというのは十分な医療機器があるわけではないので、あとから郡病院に搬送されました。その時私は郡病院にいたんですが、すでに意識もなくて蘇生バッグ(アンビューバッグ*)でサポートしないと命に危険のある重症の子でした。しかし、郡病院でも対処できなかったんです。人工呼吸器があるであろう県病院に送ろうと思ったんですが、県病院にも人工呼吸器はありませんでした。結局その子は助からなかったんです。
日本なら助かるであろう子供の命も助からない。医療にも限界がありますが、その限界について考えさせられました。

*患者の口と鼻からマスクを使って他動的に換気を行う医療機器

「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー

◆衛生状態と考え方において、日本との違いはありますか。

大きいです。手洗いもそうですし、ゴミ捨てなどについてもです。私は姪っ子がいますが、一歳なのに「ゴミはゴミ箱ね」っていったら自分で捨てに行くんですよ。日本の場合は一歳でもそうやって教育されているんですね。でもラオスにはその概念がまだあまりありません。清潔観念が日本とは全く違うのです。

問題はラオスだからというだけではなく、日本でも予防接種に対して抵抗感のあるお母さんは大勢います。予防接種に行かないお母さんもいます。日本のような先進国でもそういう方はいます。そういうお母さんを説得するのは難しく、どれだけ医療者が知識を持って予防接種のメリットを伝えてもその人たちは行かないわけで、それはラオスでも同じです。一部のお母さんはただ単に知識がなくて行かないんです。予防接種後に熱が出るのが怖くて行かないとか。そういうお母さんたちは今まで情報を得る機会がなかっただけで、機会があれば行く人もいるかもしれないけど、なかなか行動変容にはつながりません。だから継続して啓発活動を続けていくしかないと思います。

「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー

◆一番苦労していることはなんですか。

シンプルなことですが、スタッフが就業時間に来ないことがあります。そういうシンプルなことでも彼らのモチベーションをどうやって高めるか、どうしたら勤務時間に来てくれるか、そういったことで頭を悩ませることが多いです。悪気があるわけでもないし、なんで遅れてくるのか理由を考えて、原因があれば行動変容を促せるのですが、それができません。彼らは公務員なんですが3カ月給料が支払われていない、そういうこともモチベーションの低下につながったりしています。単に就業時間に来ないというシンプルな問題に見えても色々な問題が絡んでいると思います。


◆この1年で達成したと思うことはなんですか。

スタッフのスキルが高くなったということです。提供する医療スキルの質が上がったなという実感があります。それは普段一緒に診察に立ち会ってスタッフの提供するサービスを見ているのですが、今まで聞けてなかった質問ができていたり、言えてなかったアドバイス、例えばこういう症状になったら病院に来てねといった具体的なアドバイスができているなど、ちゃんと診察ができているというのを現場を通して見た時に「医療のサービスの質があがった」と思って嬉しくなります。


◆今後の課題と抱負を聞かせてください。

私達は2つの郡で活動しているのですが、この2つの郡の間にサービスの差が生まれてしまっていることです。スクマ郡はサービスの質が向上しているのですが、もうひとつのムンラパモク郡では私達が活動しているにもかかわらず医療サービスの質があまり変わっていません。例えば病歴聴取で聞くべきことが聞けないということはそれが重要ということが、まだ分かっていないということです。まず病歴を聞くというその先に診察があり、聞くことと診察とは、知識も技術も関連し合っています。医療サービスの質をどうやって高めるかが、現在の課題です。

1年活動してきて、スタッフに対して、まだここが足りていないと感じることもあります。10か所あるヘルスセンターはレベルはまちまちですが、これからの重点課題も見えてきているので、集中してそこにフォーカスしながら関わっていければいいなと思います。

「ラオス小児科医療プロジェクト」木田晶子看護師インタビュー

◆海外での医療ボランティアに興味がある人に最後に一言

みんなに「すごいね」とか言われるんですが、全然すごくないです。要はやるかやらないか、海外に行くか行かないか。私も英語ができなかったけど、まずはやってみようと思いました。そのあとギャップを感じたらそこに到達するまで頑張ったらいい。一歩踏み出す勇気、試練もいっぱいありますがそこを乗り越えるために頑張ったらいいと思います。


ラオス小児医療プロジェクトとは?
世界の医療団日本は、南部のチャンパサック県のスクマ郡とムラパモク郡で5歳未満児とその家族を対象に2012年10月より小児医療活動を開始。周産期医療を担当する世界の医療団フランスとの共同母子保健事業です。MDGの一大テーマである5歳未満児の死亡率・疾病率を下げることに貢献するため、住民への健康教育、医療施設スタッフの育成、保健局とのパートナーシップによる医療保険制度の運用(住民の医療費負担軽減)など、子どもの健康を守る地域・システム創りに取り組んでいます。

ラオス小児医療プロジェクト

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

最新記事

参加する

世界の医療団は皆様からの寄付・
ボランティアに支えられています。