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ロヒンギャの人々が故郷を追われて7年。取り巻く状況はますます厳しく

2024年8月25日、ロヒンギャ難民の人々はミャンマーから隣国バングラデシュに多数の人々が逃れて7年目の日を迎えています。東京都千代田区ほどの12km²のキャンプに95万人以上が暮らしています。

残念ながら、彼らを取り巻く状況は厳しさを増しています。キャンプ内で薬物取引などに関わっている武装グループ間の抗争が増しており、就業が禁止されている状況で特に若者の中にこうしたグループに加わらざるを得ない人々もいます。他方、彼らの故郷であるミャンマーのラカイン州では2021年にクーデターを起こした軍とこれに対抗するアラカン軍との戦闘が激しくなり、多くのロヒンギャが家から追われ、犠牲となっています (1) 。そして、長引く避難生活や将来の見通しのなさを悲観し、就業などの機会を求めて、多くの人々がマレーシアなどへの危険な海上渡航を試みます。昨年(2023年)には2000人以上の人々が渡航したものの、8人に1人が途中で亡くなったり行方不明になったりしています(2) 。運よく渡航が成功しても、彼らが難民として認定されたり市民権を得たりすることはかなわず(3) 、就労や教育の機会は非常に限られています。

このような状況でロヒンギャ難民を受け入れているバングラデシュで大きな政治的変化が起きました。1971年のパキスタンからの独立に貢献した「自由戦士」の親族への政府の職の3割の割り当てが廃止されていたところ、6月に高等裁判所がこれを違憲と判断し、7月に学生が抗議を始めました。全国的に広がった平和的な抗議行動に警察などが強権的に対応し、暴力が広がり、犠牲者が生まれました。多くの市民が抗議行動に参加し、8月5日、首相が辞任して隣国インドに逃れ、政権が倒れました。現在、貧しい人々への金融アクセスの仕組みであるマイクロファイナンスを始め、実践してノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が首班となった暫定政権が樹立されています。暫定政権は国際社会との連携を重視しているので、ロヒンギャ難民支援の政策が変わらないことを願います(4)

抗議行動とこれを押しとどめようとした動きがあった間、外出禁止令が出され、インターネットやモバイルネットワークが遮断され、難民への支援も制限を受けました。幸い、現在は支援の内容・規模が元に戻っています。世界の医療団も1ヶ月間ほどの中止期間を経て、循環器系疾患、慢性呼吸器疾患、がん、糖尿病などの非感染性疾患の予防や対処に関する啓発と診療所の能力向上支援を再開しました。

残念ながら、難民が故郷に戻る条件はまったく整っていません。避難生活はまだまだ続きます。世界の医療団は上記の活動に難民の想いなどを傾聴する要素を加えました。長引く避難生活において彼らが身体と心の両面の健康を維持・増進させることを支援していきます。

世界に目を転じると、全人口の約1.5パーセントに当たる約1億2千万人もの人々が国境を越えた難民や国内避難民であると報告されています(5) 。世界的にも難民の帰還や第三国定住がなかなか進まない状況で、ロヒンギャの人々にとっても先が見えない不安な日々が続いています。彼らへの支援はもとより、ロヒンギャ難民を受け入れ続けているホストコミュニティへの支援も継続せねばなりません。ただ、故郷を離れざるを得ない人々は単に支援を受け続ける客体ではなく、私達と同じ夢や希望、能力をもった人々です。最近、開催されたオリンピックにも難民選手団が出場しました。こうした希望を信じて、ささやかなりとも、私たちはロヒンギャとホストコミュニティ住民とともに、彼らが心身の健康への権利を認識し、健康を維持・増進していくための活動を続けてまいります。


海外事業プロジェクト・コーディネーター:中嶋 秀昭


1 Myanmar’s Rohingya caught in crossfire of civil war – DW – 08/20/2024
2 Rohingya refugees risk dangerous sea route to Indonesia in search of safety and freedom | UNHCR
3 マレーシアやインドネシアなどは難民条約に加盟していません。
4 バングラデシュ暫定政権トップ ロヒンギャ難民、「支援継続」 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
5 数字で見る難民情勢(2023年) – UNHCR Japan

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