世界の医療団は、長年にわたる紛争の影響を受けてきたシリアのアレッポ県北西部のアフリーン郡で活動しています。紛争終結の見通しはなく、2023年2月に追い打ちをかけるように地震が発生。シリアでは死者8,476人という多くの犠牲が出ました。紛争を避けてトルコに逃れていた約4万2000人の人々が震災によりトルコに住み続けられなくなり、シリアに戻っています。このことも医療がひっ迫する要因となっています。現地の保健行政は脆弱で、イドリブ県においてはイスラム過激派勢力の力が強く支援が難しい状態です。さらに10月上旬にイドリブ県全土とアレッポ県西側で行われたシリア・ロシア両政府軍共同の空爆があり約6万8000人が避難(*1)。一部はアフリーンにも逃れています。
シリアの全人口約2210万人のうち、290万人が国内避難民であり、うち180万人がキャンプに居住しています。これらの人々を含む410万人、約5人に1人に人道支援が必要とされています(*2)。
*1 UNOCHA(2023年10月13日)North-west Syria: Escalation of Hostilities – Flash Update No.3, 13 October 2023
*2 UNOCHA(2023年9月13日). NORTH-WEST SYRIA Situation Report
2018年からシリア北西部で活動している世界の医療団は、このような現状に対し基礎診療、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)、母子保健、精神衛生・心理社会的支援等を継続して行っています。地震発生後も現地のニーズ調査を行い、必要とされる医療サービスを継続して提供するとともに、不安定な衛生環境が原因の感染症の発生・蔓延予防も行っています。
支援の成果
アユシュさん(60歳の女性) 5年前に紛争を逃れて、シリア北東部のきょうだいの元に身を寄せていたアユシュさん。ところが、震災できょうだいとその妻が亡くなり、子どもたちとアユシュさんだけが残されました。 「地震で目が覚め、家が大きく揺れているのを感じました。気がつくと、がれきの下敷きになっていました。子ども達は助け出されましたが、私のきょうだいと妻は2日間、がれきの下で眠ったままでした。これからは子ども達の面倒を私が見ていかねばなりません」 世界の医療団は診療所で、トラウマへの対処方法や、自分自身や他者、社会を肯定的に認識することを伝えました。また、アユシュさんと子ども達がキャンプ内の安全な場所に住み、基礎的な生活ができるよう支援しました。アユシュさんは縫製を学び、子ども達のために自活できるよう模索しています。 |
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ズハイルくん(10歳) 彼の家族も紛争を逃れて移住していましたが、震災のショックで吃音症状が現れ、友達からからかわれたくないために家に閉じこもるようになりました。母親に連れられて来た世界の医療団の診療所で、震災で祖父母や叔父を失った恐怖や怒りについて話しました。心理的応急処置を受け、心配を鎮めるためのリラックス法や自信を深める方法を学びました。そして、感情を絵に描くことでストレスを発散できるようになりました。セッションを重ねていくうちに外出できるようになり、友達と遊べるようになりました。学業も向上し、吃音症状が改善しました。家族も安心し、彼の姿に勇気づけられています。 |
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