6月20日は「世界難民の日」です。この日に先んじて6月16日(木)、オンラインイベント「世界難民の日に寄せて、難民支援の現場から-ウクライナ、ロヒンギャ、ギリシャ レスボス島での世界の医療団の活動」を開催しました。学生、医療従事者、NGO職員など67名にご参加いただきました。
イベントではプロジェクト・コーディネーターの中嶋が、世界の難民の状況を説明。ウクライナでの戦争もあり、世界の難民・避難民の数は1億人を超えていること、移動の途中で命を落とす人びとも多く、無事に国境を越えても入国を阻止されたり、入国管理の外部化により第三国に移送されるケースもあることを伝えました。
次に世界の医療団が2015年から活動するウクライナの状況を説明。今なお戦争の続くウクライナでは国内避難民800万人に加え、最近東部以外の状況が落ち着きつつあることで近隣国に逃れた人々240万人が国内に戻りつつあります。病院は破壊され、医療従事者も不在で、医療資材も不足しているため、世界の医療団は、それらの人々のために、さまざまな医療資材の供給や、車を使った移動診療を行っていると伝えました。
また、中嶋が実際に足を運んだロヒンギャ難民キャンプでは、人口が過密しており、衛生状態や治安が悪いうえ、自然災害も多発。世界の医療団は難民のボランティアを育成し、新型コロナウイルス感染症の予防や非感染性疾患予防などについての啓発活動を行っていることを話しました。
ギリシャ・レスボス島は、シリアやアフガニスタン、北アフリカからトルコを経てEUへ逃れる人々が、トルコとEUの規定により、現在でも2,300人が留め置かれている場所です。ギリシャも経済危機に面しており、2月には政府の医療サービスが終了。NGOが全面的に医療を担う必要に迫られており、世界の医療団は医師、看護師、ソーシャルワーカーなどが医療支援を行っていることを伝えました。
中嶋の報告のあと、参加者からの質問に加え、事務局長米良からの質疑応答を行いました。
難民の受け入れを拒む国が多いこと、特にヨーロッパでは最近阻止されたがイギリスが第三国に移送する動きが生まれている。そしてその動きはデンマークなど他のヨーロッパに広がっている。その理由は? 中嶋 たとえば、バングラデシュでは難民によって現地の雇用が奪われるのではという危惧がある。また、ギャングなどごく一部が目立ち、治安が悪いというイメージがあり、それが意図的にプロパガンダとして広められている側面もある。ヨーロッパも雇用の問題は大きい。 米良 難民受け入れ国の8割以上は低所得から中所得国。もともと大変だった国が大変だった人びとを受け入れている構図になっている。治安への懸念から、ウクライナの難民が国外に逃げる際、国籍や人種などで対応に差が出ていた。世界の医療団ではダブルスタンダードに関する声明を出している。 |
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世界の医療団がそこで活動する理由は? 誰もがちゃんとした医療を受ける権利がある。自分たちに置き換えて考えてみてほしい。何も支援がなく放っておかれたら死んでしまう。命を救うことは必要。われわれみたいな人間がいなければ、世界はもっと悪くなる。対岸の火事ではなく、めぐりめぐって豊かな国にもしわ寄せがくる。みなでみなを助け合うことが必要。 |
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ロヒンギャ難民キャンプではベンガル語や学校建設など禁止されている? バングラデシュ政府の立場は、難民に早くミャンマーに戻ってほしいというものである。ベンガル語を禁止しているのは、現地と統合(インテグレーション)させたくないから。ミャンマー語の読み書きそろばんは受けられるが高等教育がない。学校もNGOなどが非公式で作っているが、許可を受けないと集まって勉強できなくなったり、取り壊しになっている。 |
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世界の医療団は、ウクライナについて国際社会に妊産婦支援の継続を求める声明も出している。ロヒンギャ問題でも国際社会に向けた働きかけをしているのか? 「ロヒンギャ人々の声を聞きましょう」「彼らの人権を大事にしましょう」というのは当たり前のこと。バングラデシュ政府もあれだけの人々に国境を開いたことはすばらしいが、現在では人権侵害に近いことになっているので、声を上げるアドボカシーはしている。国連を通じたり、NGOのネットワークを通じて政府に提言している。 |
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難民支援は緊急人道支援と言われているが、シリア、アフガニスタン、緊急といいながら、結構続いている。ここ数ヶ月のウクライナも今はまだ緊急期。長期支援への展望は? ウクライナへは240万人が帰還している。戦争の激しい東部以外では、政府・国際社会も復興支援を計画していて、緊急期と復興期が重なっている。ロヒンギャやレスボスは長引いた危機の状態。難民を受け入れている地域の支援も必要。ロヒンギャ難民キャンプ周辺のコミュニティは非識字率、貧困率が高い地域なので、それに対する開発も必要で、地域の医療支援も同時にやっている。 |
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緊急支援から開発までやっているのが世界の医療団。この3ヶ国では、日本の他の団体も活動しているが、どういう違いがあって、世界の医療団はどういう役割を担っている? NGOにはそれぞれ得意分野があり、ミッションがある。私たちは医療。家を建てるNGOなどいろいろな専門性を持ってやっている。どのNGOも基本的に緊急期であれば人を助けたいという思いは共通。世界の医療団は、復興に向けて人権の確立をめざしてその先も力をつけて復興開発を行っていく、といった特徴はある。 |
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ここ何年かにかけてNGOの立ち位置、求められているもの、お金を出す側が求めるものが変わってきている。そういった影響は現場で感じている? 中嶋 ビザの取得と延長がなかなか手ごわい。外国人援助従事者、外国NGOということで政府と緊張関係にある場合も。政府にとって、アドボカシーは耳が痛いので好まない、バランスをとりながらやらないといけない。最近の傾向として、「援助の現地化」が潮流になっている。バングラデシュでは現地のNGOが発展している。国際NGOの役割は一から十まで「助けてあげる」という垂直関係ではなく、それらと連携すること。専門知識やほかの経験など、知見を持ち寄って連携することが大切で、ロヒンギャ難民支援では現地NGOと連携している。外国人が「なんでもやってあげるよ」というのは間違いで、現地の人々との能力交換が大事。垂直ではなく水平の関係で、多様性を重視しながらやる。 米良 援助の現地化という点では、世界の医療団ではラオスで事業をしているが、日本からの現地駐在員は1人で、残り13名はすべて現地職員。現地の人が現地のことを一番よくわかっていて事業を回している。 |
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自分たちも何かしたい、という声がある。どういった関わり方があるのか。プレゼンで周りの人々に伝えてほしい、と言ったが、世界の医療団も伝えることを大事にしている。ロヒンギャの声で印象に残ったことは? 「帰りたい」「日本政府にミャンマーの状況を伝えて」と言われた。これらの声にどう応えるか、先が見えないので難しい。「ひとりじゃない」と寄り添っていることは伝えている。彼らが安心できる活動を志している。 何ができるかという点で、現地の治安状況は日本と全然違うので、安全管理が必要。現地に行くのもいいが、プロに任せてもらえれば。現地に行けないかわりに私たちを使ってもらって、私たちの活動に対してご助言いただき、活動を改善していければいいのかな、と思う。 |
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最後に、参加者のみなさまから寄せられた「私たちにも何かできることはないか」という質問に対して、さまざまな支援方法をご紹介しました。
彼らのために、ともに出来ること