ウェビナー「ウクライナ人道危機 現地の状況-いま必要な医療を届けるために」を開催しました

4月29日(金)、ウェビナー「ウクライナ人道危機 現地の状況-いま必要な医療を届けるために」を開催しました。大型連休の初日であったのにもかかわらず、83名の方にご参加いただきました。

ウクライナではスタッフを増員。医薬品の供給や車での移動診療を


最初に、現地に精通した緊急対応のプロフェッショナル、ラファエル・ラグセ(世界の医療団プログラム・マネージャー)が現地での活動について説明。ウクライナでの世界の医療団の活動は、2014年のクリミア併合後、紛争で傷ついた医療体制を立て直すため2015年から始まっています。非政府組織が管轄している地域でも活動できる数少ない団体として、2021年には1万8000人の人々と55の医療施設を支援してきました。しかし、今年2月のロシア侵攻後、爆撃のなか数時間おきにスタッフの安全確認をしながら、戦闘が激化した東部から西部に活動拠点を移動。ルーマニアにロジスティクス(物流)の拠点を新たに設け、スタッフも90人から110名に増やして活動。スタッフの安全確保に留意しながらウクライナの病院に医薬品を届けています。また、病院に行けない人々のためには、車を使った移動診療を実施。応急処置や緊急医療相談、外傷センターのサポートなどをはじめ、避難所でも非感染性疾患、性と生殖に関する健康管理、メンタルヘルスのサービスを提供しています。もともと活動していた地域では、医者が避難し、ぜい弱な立場の人々が医療にアクセスできない状態にあるため、状況が変わり次第、元の地域で活動を再開したい、とラファエルは言います。そして、現在は緊急対応が必要な段階ですが、今後、破壊された医療体制の早期復興に向けてどんな活動ができるかを探っていく、この取り組みは長期わたることになるであろうと述べました。

ラファエル・ラグセ


「戦争など起こるはずがない」と言われていたのに…


次に、ウクライナ出身で関西看護医療大学助教、臨床心理士・公認心理師の花村カテリーナさんに、現地にいるご家族や友人の様子や祖国への思いなどについて語っていただきました。カテリーナさんは、日本歴が20年になります。1991年にソ連が崩壊してウクライナが独立したとき、ロシアの侵攻をおそれた研究者のおじいさんに連れられて日本に疎開したそうです。小学校時代を日本で過ごした後19歳までキーウにいました。留学のため再び来日。臨床心理士の資格を取得し、現在は兵庫県の看護学校で教えています。
お父さんはロシアの出身ですが、ウクライナでは珍しいケースではありません。侵攻前の状況が緊迫しているときに、キーウにいるご両親に避難してほしいと伝えたら、ご両親は「ウクライナ人もロシア人もお互いの親戚、友人がいる。戦争など起こるはずない」と言っていたそうです。ロシアとは、一緒にビジネスをしたり、映画をつくったり、共通のアイドルがいたりと交流が盛んだったからです。2月にロシア軍が国境付近に配置された頃も、いつものことだととらえている方がほとんど。だからこそ24日はウクライナの人々にとっては非常にショッキングなことでした。
キーウでは、2月24日から3月にかけて、爆発音、空襲警報が絶え間なく、ご両親らはそのたびにシェルターに逃げ込んでいました。当時、いつも冷静なお母さんが泣きながら「防空壕で寝ている。防空壕がゆれるほどの爆発音が聞こえて怖かった」と伝えてきたそうです。



戦争は最低限にして最大限の人権である『命の権利』を圧倒的な暴力によって脅かす


花村さんの男性の友人は志願兵になったり地域防衛隊に入ったりし、女性は子どもと海外へ避難。「2月24日、人生は“それまで”、と“それから”に分かれてしまった」と言います。花村さんは大好きなキーウの場所の写真を紹介しながら、「知っている場所が破壊されている写真をSNSで見るたびに胸がしめつけられます。多くの人が家族を失い、家を追われ仕事を失っています。安全だった場所が殺戮の場所に。命が助かっても人生が破壊されています」と話します。そして、次のように述べられました。
「平和は戦車やミサイルによってもたらされることはありません。私は心理士という職業上、目の前の人の存在に焦点を当てることを学んできました。誰かの存在を大切に想うということはその人の自由や人権を大切にすることでもあると思います。戦争は最低限にして最大限の人権である『命の権利』を圧倒的な暴力によって脅かします。『命の権利』が脅かされる戦争において、それ以外の権利が大切にされることはありません。
キーウには魔女が住んでいるという都市伝説があります。侵略戦争がはじまってからキーウの魔女たちが世界中のすべての武器をなくしてくれたらいいなあ、と母と語りあったことがあります。これはファンタジーですが、私たち一人ひとりにできることもあります。それは、本当に大切なことは何か、ということを考え続けることです。身近にいる人を思いやること。すれ違いがあっても対話を続ける努力をすること。そのことがまわりまわって今のウクライナや国際レベルで起きていることの解決につながると信じています」


花村カテリーナさん


私たちにできることは―


その後の質疑応答で、事務局長の米良から、自分たちにできることや情報リテラシーについて話を向けると、花村さんは、「できることとして、何より関心を持ち続けてもらうこと。当初、たくさんの方がニュースにしたり、気にかけてくれたりしているが、いくいくは忘れ去られるのではないかということが一番怖かったです。ただ、関心を持ち続けるにしても、この2ヶ月でいろんなところからさまざまな情報、なかには正反対の情報もやってきました。ひとつのニュース番組、ひとつのリソースだけでなく、いろんなところから情報を仕入れることが必要です。そして、自分のことに置き換えて、一番大切なことは何かな、と考えれば複雑な歴史が絡んだこともシンプルに見えて来ます。一番大切なことって、様々な人が自分らしく生きること、命が脅かされずに生活できること、最低限の自由や権利が尊重されること。そういうものが蹂躙されたり脅かされたりすることがあってはなりません。本当に大切なことは何か、と考えながらニュースを聞いていただければ、みなさんに得るものがたくさんあるのでは」と言います。
また、米良は、「歴史には両サイドがある。世界の医療団はロシアとウクライナのコンタクトラインの両サイドで活動。どっちがどっちということでなく困っている人がいれば助けるというスタンスで活動している。両サイドの歴史もちゃんと見ていく必要がある」と指摘しました。
たくさんの質問が寄せられていましたが、終了時間になり、最後に花村さんから「支援の方法は必ずしもお金での寄付や現地に行くことばかりではありません。私自身も、日本にいてできることを2ヶ月の間もどかしい思いで探していました。ウクライナから避難民の方が日本に来ているので、臨床心理士という職業をいかして支援できることがあるのだろうと思います。みなさんのやっている活動、職業、関心をもっている領域のなかで、できる範囲で少しずついろんなことを何ができるか考え続けていただければ、とてもありがたいです」と話されました。また、ラファエルも「興味を持って参加してくださってありがとうございます。残念ながらこの状況は続き、悪化する可能性もあります。いかに医療にアクセスできない人々をサポートするか、チームで考えながら活動していきたい」と述べました。
最後に米良が、現地で活動している110人のほとんどが現地の人で、自分自身も大変な状況のなかで、この活動に携わっていることを伝えました。



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