ウクライナの武力衝突は2014年に始まってほどなく、長い膠着(こうちゃく)状態に入り、東部の国境沿いで砲撃や小競り合いが続いてきました。2月24日、緊張状態が高まってから数週間を経て紛争はエスカレートし、首都キーウを含む各地の主要都市で砲撃や爆撃が行われています。ドネツク州やルハンスク州(地方)では以前からあった敵対行為が激化しています。
市民は深刻な被害を受けています。生命を守る主要なインフラや学校、幼稚園、電力網が連日攻撃の標的となり、人々は教育の機会を奪われ、電気、通信が遮断され、冬の間寒い家に留まることを余儀なくされています。原子力発電所にも攻撃が加えられました。2月24日にはチェルノブイリ原子力発電所が戦車の砲撃を受けて土壌が飛散、放射性物質が流出し、ロシア軍に占拠されています。ヨーロッパ最大のザポリージャ原発への攻撃は現在も続いており、火災が発生しています。
武力紛争が激化し、医療インフラ、医療サービス、医療機器が大きな被害を受けています。ウクライナのリャシュコ保健相の発表によると、34の医療施設が攻撃を受け、中には建物や供給システムが破壊され、電力や水の供給が途絶えるなど、修復不可能な施設もあります。1 サプライチェーン(供給網)の崩壊により、負傷者は重要な医薬品を手に入れることができません。薬局も被害を受け、在庫が残りわずかとなっています。空襲警報が鳴り響く中では、薬局の前に行列を作るわけにもいかず、薬を入手することはできません。2 新型コロナウイルス感染症COVID-19の拡大は、医療システムと国民に大きな影響を与えています。感染者数は減少しているものの依然として多く、感染リスクにさらされている人々へのワクチン接種はいまだに不十分です。サプライチェーンが破壊されたことで在庫が底をついています。世界保健機関(WHO)は、COVID-19重症患者の治療に必要なベッド数と酸素の不足について、悲痛な警告を発しています。3
さらに、ウクライナ最高会議(議会)のリュドミラ・デニソワ人権担当調査官の報告によると、ロシア軍はキーウ州ボロディアンカにある精神神経科の施設を支配下に置きました。ここには、介護と治療を常時必要とする知的障害・精神疾患のある患者600人がいます。同市の住民によると、施設周辺の物流が危機的状況にあります。また、民間人のバスや車が攻撃され、人々が逃げ惑い、死傷者が出たと報告されています。
これらの攻撃はすべて、1907年10月18日の「陸戦の法規慣例に関するハーグ条約」4 およびその付属書「陸戦の法規慣例に関する規則」、および「戦時における文民の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーブ条約」5 に違反するものです。
民間人および主要なインフラを含む民間施設は、攻撃の対象になってはなりません。国際人道法は締約国に対し、民間人の付随的被害および民用物の損害を回避し、いかなる場合でも被害を最小限に抑えるための実行可能なあらゆる予防措置を講じることを義務付けています。住宅地が標的となることや、盾として利用されることがあってはなりません。同様に、水道、電気、ガスのような必要不可欠なサービスを提供するための民間インフラは、近くに軍が存在することで攻撃を受け、損傷や破壊の危険にさらされてはなりません。ジュネーブ条約4条および国連安全保障理事会決議2286号に基づき、医療目的で設置された病院の医療従事者および医療施設は、いかなる状況においても保護されなければなりません。医療施設は攻撃されてはならず、アクセスを制限されてもなりません。
現在も続く紛争は、人命を奪い、人々を傷つけ、経済状況や社会的ネットワークを混乱させています。最前線にいる人々やその家族がこれ以上苦しまないように、敵対行為の即時停止、停戦を維持することが何よりも大切です。犠牲者は増え続けるとともに、時間が経つにつれて心理的なトラウマも深刻化し、人々は精神的にも経済的にも極限まで追い込まれています。
世界の医療団は、民間人の生命と健康を脅かす現状に強い懸念を示し、紛争当事者と支援国政府に以下のことを要請します。
● 直ちに敵対行為を止め、交渉の場を設けること
● 人道回廊を開放し、避難する民間人の安全を保証すること
● 生命を守るために欠かせない施設、特に医療施設への攻撃をやめること
● 攻撃・侵略から民間人を守ること
● 被害地域への安全で妨げられることのない交通手段を提供し、人道支援スタッフの安全を確保、重要な支援活動を提供できるようにすること
● 人口が密集する地域への無差別攻撃を非難し、紛争当事者および支援国政府に対し、武力紛争下の市民の権利を保護する国際人道法およびジュネーブ条約4条を遵守するよう要求すること
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1 OCHA
Also : Ukraine: Public Health Situation Analysis (PHSA) Ukraine – 03/03/2022 [ENG] | HumanitarianResponse
2 OCHA
Also : Ukraine: Public Health Situation Analysis (PHSA) Ukraine – 03/03/2022 [ENG] | HumanitarianResponse
3 OCHA
Also : Ukraine: Public Health Situation Analysis (PHSA) Ukraine – 03/03/2022 [ENG] | HumanitarianResponse
4 https://ihl-databases.icrc.org/applic/ihl/ihl.nsf/0/1d1726425f6955aec125641e0038bfd6 (Section 2, Chapter 1)
5 https://www.un.org/en/genocideprevention/documents/atrocity-crimes/Doc.33_GC-IV-EN.pdf
6 Public Health Situation Analysis (3 March), WHO
7 Ukraine: Humanitarian Impact Situation Report (As of 3:00 p.m. (EET), 9 March 2022) – Ukraine | ReliefWeb
8 OCHA
Also : Ukraine: Public Health Situation Analysis (PHSA) Ukraine – 03/03/2022 [ENG] | HumanitarianResponse
9 Ukraine: Humanitarian Impact Situation Report (As of 3:00 p.m. (EET), 9 March 2022) – Ukraine | ReliefWeb
10 Ukraine: Humanitarian Impact Situation Report (As of 3:00 p.m. (EET), 9 March 2022) – Ukraine | ReliefWeb