©Eric RECHSTEINER
安心できるホームを築いていくために
「支援を繋ぐ人」
をもっと増やしたい。
◆世界の医療団と共に活動することになった経緯を教えてください。
私は元々”ホームレス”支援団体であるNPO法人TENOHASIの代表で、「路上生活者が路上ではない場所で生活するための橋渡しをする支援」を続けていました。支援活動をしながら実態調査もしていくと、”ホームレス”の人の中には精神疾患を有する人が4~6割もいることが分かってきました。海外の”ホームレス”に関する文献を読むとほとんどが精神疾患に関する話題です。一方で日本の”ホームレス”問題は今まで就労支援を中心に行われてきましたが精神疾患に関する議論がほとんど皆無でした。このため精神疾患や知的障がいを有する人へのフォローをする制度が十分にありませんでした。ですから、支援活動をしていく上で、路上生活者の仕事の課題と精神保健の間にある課題のギャップの埋め方が分からず、四苦八苦しながら支援活動を行っていました。そんな時に、世界の医療団の事務局長の畔柳さんにお会いしました。畔柳さんは、世界の医療団として国内の支援を考えていた時でした。私たちは世界の医療団が海外で培ったノウハウを含めて一緒に活動してもらえたら、”ホームレス”の援助がスムーズに出来るようになると思うようになり一緒に仕事をさせていただくことにつながりました。
◆現在行っている「東京プロジェクト」と、今後の課題について教えて下さい。
東京プロジェクトとは、医療・福祉の支援が必要なホームレス状態の人々の、精神と生活を向上させることを目的としたプロジェクトです。精神疾患を有する路上生活者にも支援という視点で考えると二通りのパターンがあります。一つは精神保健の中で支援を受けていた人達が路上生活者になった場合です。こうした人達は、「どういう支援を受けてどういう付き合いをすればいいか」は知っていますので医療に繋ぐことが主眼となります。もう一つは、路上生活をずっとしながら働いて精神疾患を患ったり知的障がいを有することを知らずに働いてきて結果的に路上生活状態になった場合です。こうした人達は、「精神保健分野での支援の受け方がわからない」し、「受けたあとでどういう生活していいかもわからない」という状況にありますので、医療につなぐだけでは支援になりません。。私たちは、ひとりひとりの状況を判断し、地域での安定した生活に至るための橋渡し的な役割を担っていきます。
今課題となっているのは、「支援を繋ぐ人」を増やすことです。例えば、今日ひとりの”ホームレス”の人と出会ったとします。その人を福祉事務所や病院、アパートに繋ぐためには付き添いが必要です。独りではできないことがたくさんあるからです。しかし、現在は最少人数のボランティアスタッフのみで行っていて、その人たちの都合がつかなかったり体調が悪いかったりすると支援ができない状況になります。逆にそこをクリアできれば、路上生活者の人がアパートに入ったり治療を受けたりという支援をもっとスムーズにできるようになります。現在、年間50人~100人の方の路上生活から脱する支援ができています。支援を繋ぐ人が増えれば精神疾患を有する人が路上生活状態のままでなくてもよい状況にもっと力強くもっていくことができると確信しています。
◆欧米の”ホームレス”支援活動は日本の活動とどこが違いますか。
“ホームレス”の定義の違いが大きいと考えています。欧米と比べると、日本は最も”ホームレス”の定義が狭い国です。日本の”ホームレス”という定義は「路上生活者」を指します。路上生活に至るまでの貧困状態と、路上生活を脱した後の不安定な状態、こういった前後のことは含みません。アメリカではシェルター(ホームレス緊急一時宿泊施設)にいる人、イギリスでは家があるけれどもそこに安心して住めない人も”ホームレス”に含みます。つまり欧米では「不安定な人たちも含めての支援」、日本では「路上から出たら終わり」になるわけです。これはそもそも「平等」という言葉に対する考え方の違いが根底にあります。アメリカは、「機会の平等」を実現しようとしている国です。生まれた場所が不平等で貧困の格差があるのも認め、その上で機会を平等にしようと考えている。これに対して、日本は「結果としての平等」を求めている国です。「権利があり平等になるためには義務と責任をしっかりやるべきだ」と考え、そもそもの機会の不平等があることについてはあまり見てきませんでした。こういった背景がホームレス政策の違いにも現れていると思います。
◆東京都の事業にもあるハウジングファーストとはなんですか。
「ハウジングファースト」というのは、住まいを失った人への支援の第1は本人にとって安心できる住まいを得ることという支援の考え方です。国の就労支援や生活保護の支援は不十分ながら確かに行われており、路上生活者の数は減っています。しかし、路上生活から脱する場合は、集団生活を強いられるような貧困ビジネスが横行する劣悪な施設生活を強いる場合が多いのも事実です。本人にしてみれば河川敷に作った小屋の方がずっとマシで安心できほどです。彼ら彼女らは安定した生活を求めているのであって、必ずしも劣悪な施設に入れられ生きる自由や尊厳を奪われてまでも路上生活を脱したいというわけではありません。むしろ路上で生活しながら仕事に行くといった自立した生活をしたいという場合もあります。本人にとっての安心出来る住まいが得られるところから自立の支援が始まるのだと思います。
◆「東北支援プロジェクト(東北ニココロプロジェクト)」についてお聞かせ下さい。
震災によって家や家族を失った人も多いですが、そうした中でも徐々に人とつながり、昔ながらの付き合いができるようになってきた人もいます。住宅も建設され、そこに入居する人も増えています。ところが、住宅に入った途端に津波の被害を思い出す人もいます。住居に入ると壁が増える分、誰かと一緒にいる時間が少なくなります。独りになり苦しい時間が増えます。そこで、人とつながったり、新たな出会いやすさを作ったりすることが大切になります。世界の医療団の仕事は人と人がつながる仕組みをつくっていくことだと考えています。
東京プロジェクトとは?
医療・福祉の支援が必要な”ホームレス”状態の人々の精神と生活向上プロジェクトです。路上生活状態にある方と路上で出会ってから、地域での安定的な生活に至るまでの、「住まいの調整」と「生活の調整」を二本の柱として活動を進めています。具体的には、「アセスメント」「調査・研究」「医療、福祉、生活相談」「アウトリーチ(訪問活動)」「シェルターでの医療/保健活動」「ケアマネジメント」「リハビリテーション」「能力開発」「アドボカシー(政策提言活動)」と多岐に渡ります。これまでの「ホームレス支援」での生活が安定するまで到達する人はごく少人数でした。現在では関心を持って集まるひとも増え、当事者同士の支えあいも層が深くなり、着実に場が充実し変化してきています。引き続き多くの人がこの現場を知ってくださることを願っています。
「東京プロジェクト」について
「東日本大震災支援プロジェクト」について
撮影
photo①:Eric RECHSTEINER
photo③:井澤一憲
photo④:Maho Harada