東日本大震災:福島そうそう現地医療活動レポート5

世界の医療団が恊働している「メンタルクリニックなごみ」は、福島県相馬市の中心部に位置します。
震災後、福島県立医科大学医学部神経精神医学講座などが中心となって設立したNPO法人が支援して開設にこぎつけた市内唯一のメンタルクリニックです。

東日本大震災:福島そうそう現地医療活動レポート5
私は世界の医療団を通じて、平成24年3月からほぼ月に一回のペースで外来診療にあたっています。平成25年3月までは第3火曜日、4月以降は第4土曜日を担当しています。現在は1日平均約20名前後の患者様を診察しています。

仮設住宅にお住まいの方、各地を転々として戻って来られた方、賠償交渉で疲弊された方、避難して来られたものの地元の皆さんとうまくなじめない方、仕事や子育ての事情から家族と離れ離れに暮らす方など震災の影響は様々です。

また時間を見つけて、訪問支援などのアウトリーチを主体とした地域保健活動を行っている「相馬広域こころのケアセンターなごみ」のスタッフの方と共に仮設住宅を訪問し、高齢者の皆さんの健康相談や健康診断を実施しています。仮設にお住まいのご婦人方の笑顔やユーモア溢れる会話に励まされています。

啓蒙活動としましては、最前線で自殺を防ぐ役割を担っておられる民生委員や自治体・企業のご担当者の方々を対象に自殺ゲートキーパー講習会を開催いたしております。震災から2年以上経過しましたが、震災関連の自殺は今後も発生する可能性があり、自殺を未然に防ぐために地域の方々と協力して行きたいと思います。

最初に相馬市で精神科医療に携わったのは、震災後の平成23年5月中旬でした。現地スタッフの方がペ・ヨンジュンさんから寄贈された車で福島駅まで迎えに来てくださいました。相馬市に向かう国道沿いにはハナミズキが桃色や白色の小ぶりな花を咲かせていました。

東日本大震災:福島そうそう現地医療活動レポート5
相馬市は福島県北部の浜通り(沿岸地域)に位置します。市の中心部は海から数キロ内陸のため津波の被害はなかったのですが、沿岸部は四百名以上の方々が津波で亡くなられたり行方不明になられたりしています。

相馬市には元々精神科医療施設が無く、大震災後に前記の福島県立医科大学医学部神経精神医学講座が中心となって心のケアチームを立ち上げました。各地から集まった精神科医が交代で精神科を持たない公立相馬総合病院で他科の外来ブースを借りての外来診療や避難所での往診を行っていました。医療チームは相馬市保健センターに毎朝集まり、合同ミーティングを行っていました。センターの責任者は全国から集まった医師、薬剤師、保健師、看護師を前に、「皆さんが来てくれるのが何よりの支えです。」と涙ぐんでおられました。

避難所ではお子さんを流された方ともお会いしました。かけるべき言葉も見つからず、ただお話を拝聴するのみでした。早朝黙祷を捧げるために沿岸部まで走って行ってきました。住宅地、港湾部、工場地帯いずれも人影はなく、一面焼け野原のようでした。その中を野生のキジが駆け抜け、高い木の枝にエプロンが引っかかっていました。

この時は短期支援だったので、その後継続的に東北地方で医療支援ができないものかと思っていいたところ、平成23年末に世界の医療団からお話をいただき、今日に至っています。5月に短期支援に訪れた際の受け入れ主体が今回と同じ福島県立医大精神科チームであったのも何かの縁のような気がします。

主治医として診療させていただく患者様も次第に増えており、今後も必要とされる限り相双地区での医療支援を続けていきたいと思っています。

小綿一平(精神科医)(※写真1)

※写真2 新地町の仮設住宅でご利用者のみなさんと

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