長く続けること。
それが私の目標であり、責任です。
◆世界の医療団のスマイル作戦にご協力いただけることになったきっかけは何ですか?
国際協力や国際支援活動には学生時代から興味があったんです。でも、参加したところで具体的に自分には何が出来るんだろうって考えると漠然としていましたし、明確な目的や使命も当時は見出せなかったんです。その後、勤務することになった病院の配属先が手術室になり、そこで医療スキルや知識を蓄積していたところ、たまたま世界の医療団が手術の短期ミッションをやっていることを知り、初めて参加させてもらいました。最初に参加したのが2007年。カンボジア・プノンペンでのスマイル作戦です。自分の中では医療ボランティアは続けていくことに意義があると思っていましたので、その後も継続的にスマイル作戦に参加させてもらい、今に至っています。
◆スマイル作戦に参加した中で、1番印象に残っていることは何ですか?
やはり初めて参加した、カンボジアでの医療ボランティアですね。何から何まで自分がやらなくてはいけないんです。日本の病院は医療機器が揃っていて、医療現場もシステマチックに動いています。役割がしっかり決まっているんです。でもカンボジアは自分がやらないといけないことがほとんど。医療機器の洗浄から組立、診察、物品管理に経費管理。役割分担できるほど人員に余裕がありませんから、誰かがやらなければ始まりません。現場が動かないんです。これは少数精鋭のミッションならではなんでしょうね。現地の看護師の役割が日本とは違って、看護師が直接、患者の縫合や抜糸を行っていたんです。日本ではこういったことはしませんから、ここでは日本よりも看護師に幅広く任せているんだなぁというのが印象的でしたね。
◆スマイル作戦に参加して良かったなと実感する時はどんな時ですか?
“スマイル作戦”ですので、やはり患者さんが笑顔になると、参加して良かったなぁと思いますね。患者さんが笑顔で帰る。手術を喜んで笑顔になってくれる。その笑顔を見ると、本当に幸せでやって良かったと思えます。カンボジアでやけどを負った女の子がいて、何度も手術を施して良くなりました。患者さんって、治ってくるともう病院に来ないことが多いんですが、その女の子は私たちが来るってわかると、必ず会いに来てくれるんですよね。「やけど良くなったよ!」とか「調子いいよ!」って言いながら。些細なことなのかもしれませんけど、スマイル作戦ってこういうことなんだなって思う瞬間です。
◆医療ボランティアを続けている中で、苦労した点はどんなところですか?
実務的な部分では、医療に対する感覚の温度差や環境の違いに苦労しました。あるべきものがない、とか、出来ることが出来ないとか。当然この医療機器はあるだろうなという日本の感覚で現地に行ってしまうと、その場所の医療に対する意識や設備に戸惑ってしまいます。その違いに対応出来るよう日々奮闘していましたね。あとはスマイル作戦が必要とされる地域は、形成外科が未発達だったり、認知度が低いことが多いんです。病院に形成外科で使えるような医療機器がなかったり、「形成外科ってなに?」と聞いてくる医療スタッフがいたり。そういうスタッフには、実際手術に参加してもらって、形成外科を肌で学んでもらいます。そうやって形成外科とは何かを教えていくと、次の手術のときに言わなくても器械が準備されていることがあったんです。「形成外科で必要でしょ?」って。そういう時は、今までの苦労も忘れて嬉しい気分になりますね。形成外科が何なのかを少しずつわかってきてるんだなぁって。
◆スマイル作戦に参加したことで、ご自身の働き方や生き方に影響を及ぼしましたか?
大変だなと思うことの方が多いんですが(笑)、ひとりですべてに気を配らなくてはいけないという環境が、自分の仕事にとても良い影響を与えてくれています。一看護師の立場からだと見えてこない部分にまで意識を持っていかなくてはいけないので、手術や医療に対してバランスが取れるようになったんです。ある一方向からしか見られていなかった医療を、さまざまな側面から見つめることができるようになりました。本当に必要なものや、優先すべきものを総合的に判断できるようになった感じがします。日本だと「この針糸が欲しい」って思ったら、それを発注して手配する役割の人に伝えればそれで終わりです。でも現地ではそうはいきません。欲しいと思うのも私なら、手配するのも私。時にはミッションの経費を考えながら。手術のコーディネートもしなくちゃいけません。日本の医療システムもわかっているし、スマイル作戦が必要な地域の「1から10まで見渡す医療」というのも経験している。これって看護師としては強みになっているなと思っています。
ミッションに参加すると、やっぱり学ぶことは多いです。視野も広がります。決して自分の生き方にとって無駄にはならないと思います。でも日本だと、ボランティアに参加することがイコール「ブランク」や「マイナス」と受け取られがち。ボランティアに参加したことによって、文化の違いによる医療だったり、そこで求められる技術を知ったり、とても糧になることが多いです。ですから、「ブランク」や「マイナス」ではなくて、「キャリア」として社会が認識するようになれば、もっともっと積極的に参加する人も増えて、生き方や働き方に何かしらの影響を与えるんじゃないかなと思います。ただ、ボランティアは1回行っただけでは目の前の出来事の表層的な部分しか見えません。何度も何度も続けて行くことで、深い部分を知り、思考を巡らせることが出来ると思っています。
◆スマイル作戦で新たに挑みたいこと・目標はありますか?
バングラデシュでは、日本人の先生が現地の若い先生たちに形成外科についての講義をしたり、彼らに実際に手術に参加してもらったりしています。将来は”支援を必要としなくなるための支援”が出来ればいいなと思っています。現地の先生が手術を行える知識と環境が整えば、医者にとっても、患者さんにとっても嬉しいことですからね。そのためには継続的に現地へ足を運んで、同じ先生や看護師に手ほどきしないと定着しません。繰り返し繰り返し、じっくりやっていきたいなと思っています。また、スマイル作戦はニーズがとてもあります。継続的に活動を進める上でも、日本の医療ボランティアをしっかり確保していきたいなという想いがあります。メンバーをある程度定着させて、現地との繋がりや信頼関係を育みながら、医療教育や手術が出来ればいいなと思います。継続して行うことで得られる成果や結果が、医療ボランティアの価値を高めます。長く続けることが目標であり、私の責任だと思っています。
スマイル作戦とは?
先天的、あるいは戦争、事故、病気など後天的に顔面や身体に変形や損傷を追いながらも手術を受けることができない患者たちに手術を施す形成外科のプロジェクトです。患者の多くは、変形や損傷による機能的な不具合だけでなく、古い信仰や通説、偏見によって社会から疎外された孤独な生活を余儀なくされています。世界の医療団は、患者に手術を実施することにより、変形や損傷を修復するだけでなく、彼らの顔に笑顔が戻り、更には人間としての尊厳と誇りを回復し、社会へ溶け込み新たに生きていくことを願い「スマイル作戦」と命名しました。また、手術を直接行うだけではなく、現地の医療スタッフへの技術の移転、育成も目的の一つに掲げています。
※写真1 現地の看護師に手術室の管理方法を説明する石原看護師
※写真2 今年6月に初めてミッションを行ったネピドー(ミャンマー)の手術室にて
※写真3 マダカスカルの現地スタッフとともに。手にしているのはスマイルボード(日本の支援者から送られたメッセージ)
※写真4 バッタンバン(カンボジア)にて火傷を負った子どもとの治療後の一コマ