シリアでの紛争が始まってから10年もの時間が経とうとしています。終わりが見えない戦争は、悪化の一途を辿っています。シリア国内で避難民となった市民は、必要とする人道支援を受けることすらままならず長引く困難な状況に、心身ともに疲弊しきっています。
戦況が激しくなればなるほど、人道支援団体も物理的、政治的な障害と直面することになり、市民による人道的サービスへのアクセスは困難になっていきます。
「トルコとの国境近郊やシリア国内のキャンプの生活環境は劣悪で、人々は人道援助に頼らざるをえません」世界の医療団スペイン事務局長のElena Urdaneta が報告しています。
癒しケアする人々のために活動する、それでも標的にされる医療従事者たち
10年におよぶ紛争によって、多くの医療者が国外へと避難しています。シリア国内の医療施設は、慢性的な人員不足に陥っており、特に医療ニーズの高い北部では、助産師を中心に医療者が足りていません。攻撃対象となった病院や医療施設は爆撃され続け、現在は約半分の医療施設が機能していません。医療スタッフの保護と研修体制の制度が一刻も早く望まれています。
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医療者の数が足りないだけでなく、国内の医療者たちも暴力に晒されています。
2016年から2019年で494件の医療施設および医療従事者に対する攻撃が確認されています。WHOによれば、世界中の武力紛争の中で、シリアは長年にわたって暴力が医療へ影響を及ぼしている最悪の例となっています。国連安保理による紛争下の医療従事者及び医療施設の保護に関する決議2286号の不履行、これらの戦争犯罪への不処罰をそのまま見過ごしてはなりません。
また、パンデミック発生以前と比較しても、シリアの国内の保健医療状況は悪化しています。人道的援助だけでなくワクチンの供給にも問題を抱えています。国際人道法に基づき、紛争地に対してもワクチンへのアクセスを保障することを求めます。シリアでは、2021年2月に4万4,000件のCovid-19感染が確認されています。感染の6%が医療従事者であり、医療者のワクチン接種を優先的に進めるべきであると考えます。
人道支援ニーズは増え続けている一方で、資金調達が滞っている
支援ニーズが増え続ける一方で、その活動のための資金が足りていません。2020年、国連の人道的対応計画(COVID-19対応含む)は、目標資金の58%(要請額38億1700万ドルのうち22億1,700万ドル)しか調達できず、2019年よりその額は更に減少しました。国境沿いでの人道支援に係る国連決議2504号の履行が延長されず、シリア北東部のキャンプ以外、国境沿いのキャンプやキャンプ外への避難民への支援資金を確保することが事実上できていません。
世界の医療団の活動
世界の医療団は、12の保健医療施設にて、性と生殖に関する健康、メンタルヘルス、心理社会的支援を含むプライマリーケアへのアクセスを確保するために活動を続けています。また、避難民キャンプをケアするために、コミュニティワーカーが家庭訪問を行っています。
Covid-19対応では、PCRキットの提供、研究機関へのサンプル輸送のための後方支援を行いました。緊急対応チームを立ち上げ、支援するすべての医療施設にて、感染予防とリスク軽減のためのプロトコルの導入、感染疑いのある症例管理、また継続的にスタッフに研修の機会を提供しています。
生きるための支援
シリア北東部では140万人(全人口の54%)が、生命をも脅かすリスクに現在も直面しています。また、シリア北西部では、280万人が人道的支援を必要としています。生きるための支援が必要とされているのが、今のシリアの現実です。
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