2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されたことにより、すべての国連(UN)加盟国は、グローバル・ヘルスケアへの新たなアプローチ:2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成という目標を掲げました。
“すべての人とコミュニティが、必要とされる最新の、予防、治療、リハビリ、緩和的な医療サービスを、十分な品質で効果的に、かつ経済的困難に晒されることなく利用できるようにするもの」と定義されています*1。
*1: https://www.who.int/health_financing/universal_coverage_definition/en/
2019年9月23日のハイレベル会合では、すべての国連加盟国が、UHCに関する画期的な政治宣言を採択し、新戦略の下での保健セクターの一連のコミットメントに合意しました。世界の医療団(Médecins du Monde:MdM)は、最終文書において重要な点が欠けていることから、すべての人の健康への権利が損なわれる可能性があることを懸念しています。
世界の医療団とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
保健医療と健康的な生活環境への普遍的なアクセスを確保することは、MdMの使命と活動の中核をなすものです。MdMは、世界中で保健サービスを受けることができず、疎外された人々に直接働きかけています。社会的、経済的、政治的、その他の非生物学的な決定要因が人々の健康を形作る上でいかに重要であるか、MdMはその証人との役割を担っていきます。
私たちMdMは、脆弱なコミュニティにつながりを持つことで、ヘルスケアアクセスの実態について独自の視点を持つことができ、加盟国が国連に提出する報告書を検証するための証拠を提供することが可能になります。
Rights-based approach / 権利に基づくアプローチを
健康*は基本的人権であること、誰もが身体的・精神的健康へ最高水準の医療を受ける権利があること。
*「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(1947年WHO憲章:日本WHO協会訳)」
個人や集団の健康に強く影響を与えうる政治的、経済的、社会的な決定要因を認識すること。健康と社会保障制度を超えた決定要因に対処するためには、あらゆる公的政策において健康へのアプローチを忘れないこと。
― 私たちは人々とコミュニティを中心としたアプローチを採用し、参加と対話を軸にした包括的でアクセスしやすい支援メカニズムを確立するよう努めています。人々やコミュニティが自分たちの権利を主張できるようにすることが大切。
― 移民、難民を含む健康リスクの高い人々に権利を伝えることで、誰かが取り残されないように、弱い立場にある人々が、多くの人と同じレベルで権利を享受できるように、保護と支援の義務を国に対して求めます。
― 経済的だけでなく、健康や公共サービス、あらゆる形態の差別や排除に対処すること
― 最低限の健康保険ではなく、すべての人が健康になる、健康でいる権利を保障すること
State responsibility / UHCは公的責務
権利に基づいたアプローチに欠かせないのが、包括的で公平な公衆衛生システムの構築実現へ向けた国の本質的な役割と立ち位置です。
すべての人の健康への権利を尊重し、保護し、推進する義務が国にはあります。
― 民間セクターを監督し、規制すること。質の高い公衆衛生サービスがすべての人に利用できるようにする義務が国にはある
― すべての人が健康への権利を確保できるように、高所得国は、低・中所得国の保健制度の支援を強化するための保健・開発政策を維持・改善すべきである
Sexual and reproductive health and rights / 性と生殖に関する健康と権利
WHO憲章では、MdMの基本理念でもある性と生殖に関する健康への権利(SRHR)についての具体的な言及がありません。ユニバーサルヘルス・カバレージ(UHC)には、SRHRがUHCの対象となることはもちろん、持続的実現への取り組みを推進するべきだとMdMは考えます。
SRHRは、健康への権利と持続可能な開発目標の重要な構成要素のひとつ、ジェンダー平等と差別のない社会へ欠かすことができない取り組みです。
世界各地でMdMは「誰も取り残さない」という原則に従い活動を続けています。私たちが考えるUHCとは、一人ひとりが基本的権利として健康を保障されること、それがあって初めて実現へとつながるものだと考えています。