これまで首都ダッカでのみスマイル作戦を行ってきたが、バングラデシュ南部でもニーズがあることが分かり、今回、GK大学病院の関連施設であるGKコックスバザール病院でのパイロットミッションを行うこととなった。ミッション期間のうち3日間はチームを2つに分けて、6名のメンバーで南部に向かった。
コックスバザールへはダッカからの国内線で約50分。若干湿度の高さを感じたが11月であったため暑すぎることはなく活動はしやすかった。病院に着くとスタッフが歓迎してくれ、診察室の外は50名を超える患者であふれていた。口唇裂の子ども、火傷を負った男の子、子を抱く母親、みな順番が来るまで辛抱強く手術へのチャンスを待っていた。パイロットミッションであったため手術症例は慎重に選別され、翌日から1日半かけて合計13件の手術が行われた。
火傷後の瘢痕で指がまっすぐに伸ばせない男の子、今回の手術でかなり伸展が可能になったがこう縮が強かったためもう一度手術が必要と医師は言う。瞼に腫瘤のあった女の子は術後瞬きしても視界を遮るものはなくなり、足の甲にのう胞があった男性はサンダルを履いても引っかからないようになった。それぞれ小さな手術ではあったが、本人にとっては大きな不便となっていたため、手術を受けられた喜びと私たちへの感謝を表して帰っていった。首都ダッカとは違い周辺に外科手術が可能な病院は少なく彼らのような症例は手術の機会を得られない場合もあるため、この地域におけるスマイル作戦のニーズを改めて実感した。
一方GK大学病院でも例年通り手術を行った。全身に火傷を負った男の子、今回は左腕の手術であったが過去に何回か手術を受けていたため患部へ移植できる皮膚が極めて少なかった。今後は右腕の手術も必要で、その時のことを考慮して最小限の採皮(移植する皮膚を採ること)で手術を行った。その場限りでない患者の将来を考えた治療をすべくみな経験と知識を凝らしている。
また、形成外科への認識を広めるため世界の医療団の形成外科医が講義を行った。約70名の医学生を対象に、今回は「形成外科とは何か」という総論であった。発展途上国では生命の危機に直結しない診療分野は未発達なため形成外科は後回しになってきた。彼らが形成外科に興味を持つことから始まり、知識や技術を深め、将来は自分達で自国の患者を手術できる、今回の講義はそのための一歩であった。
バングラデシュでのミッションは来年も継続され、すでに多くの患者が予定されている。
ダッカ:診察108名 / 手術47件
(全身麻酔27件 / ブロック9件 / 局所麻酔11件)
コックスバザール:診察55名 / 手術13件
(全身麻酔2件 / ブロック1件 / 局所麻酔10件)
看護師 石原 恵