感染症の流行は、私たちの活動にも、現場で会う人々にも、医療ボランティアにも、それぞれのこころにも、身体にも、大きな変化と影響をもたらしました。
世界の医療団は、世界約80ヶ国で活動する人道医療支援NGOであり、これまで世界各地で感染症プログラムにも取り組んできました。
それでも、ワクチンのない、予防策や症状が未解明の感染症の脅威を痛切に感じ、これほどまでに感染症と身近に向き合ってきたことは日本国内ではありませんでした。社会の混乱と情報が錯綜する中で、これまでの活動の延長線上に新たに感染予防と拡大防止のために、できることを始めました。
その時、医療支援団体としてできること、必要とされていることをしてきた
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行自体について、COVID-19について、感染予防で何ができるか、具合が悪い時はどうしたらいいのか、それらを伝えることからスタートしました。ハウジングファースト東京プロジェクト医療班の取り組みで会う方には、情報が届いていない人たちがいます。医療を含めた様々な社会福祉制度そのものを知らない方もいます。まずは月2回の炊き出し医療相談と毎週の夜回りで、COVID-19についてのあれこれチラシ、石鹸や消毒液、マスク、カイロやティッシュなどをお声がけしながら配りました。コロナウイルスだけでない病や怪我をしている人、医療や情報や相談できる場を必要としている人がいる状況下で活動中止はできない、その判断からどこであっても感染しない、感染させないことに配慮しながら、医療班の活動は続いています。
コロナ禍で活動から見えてきたこと
一見すると、訪れる人に大きな変化はありませんでした。緊急事態宣言が発令されると炊き出しに来られる方の人数も増えてきました。女性や20代〜40代の方もお見かけします。ネットカフェ休業の影響もあります。コロナ不況によって職を失い同時に寮を出ることになってしまった方、家賃が払えなくなってしまった方、集団での生活が不安になってしまった方、様々なストレスから体調を崩してしまった方、居場所を失ってしまった方。
“しまった方”一人ひとりのポストコロナが、社会から蔑ろにされている現実がありました。
ほぼ活動でお会いする方に共通しているのは、コロナ禍よりそのずっと前からある脆弱な部分、金銭、家族、居場所、体調、仕事、人間関係、環境あらゆることが、コロナ禍にあってはその人たちにより大きな影響を及ぼしているのです。
安定した安全な自分自身で選択できる住まいや居場所を持たない方、医療を受けることも出来ない現状はどうしたらなくなるのでしょうか。
前からあった弱い部分がより拡がってしまう
東京池袋の活動だけではありません。自然災害の被災地、世界中で支援活動が行われている場では同じことが起きています。
感染症危機にあって、集団生活を送らざるをえない人、安全な住まいや居場所を持てない人たち、水や石鹸がないなどの予防手段さえとれない人がいます。感染リスクは高まります。その原因は、その人にある脆弱な部分が、人権であるはずのサービスからその人を疎外してきたから。またも、その部分が拡がってしまうのです。
無関心と誰もがもっている権利
感染症危機にあっても、そうでなくても、ジェンダー、アイデンティティ、生まれた場所や環境が誰かにジャッジされることがあってはならない。医療も教育も住まいも、誰しもが生まれながらにして有する人権であることを忘れてはならない。なかったことに、見なかったことにしないために、同じことを繰り返さないために。