地方であるフアパン県には、様々な保健の問題があります。住民に最も近い医療施設であるヘルスセンターや郡病院の医療スタッフは、研修などの学ぶ機会が少ないこと、その診療内容に住民の信頼が得にくいこと、結果として、住民は薬局や伝統医療などから選択し一次医療機関の受診が遅れがちであることです。
世界の医療団は、2018年末に外部医療専門家2名の派遣を行いました。専門家の意見として、一次医療施設の利用者数が少ないこと、問診時のデータ(バイタルサイン、栄養状態、受診前の受療履歴など) に不足があることが挙げられました。一次医療施設での診療サービスを確実に行う必要があっても、医療スタッフ自身が振り返りをする仕組みがないため、具体的な改善点に気付くことができないのです。
この状況に対して、同一次医療施設スタッフで、子どもの下痢、呼吸器感染症など多く見られる病気の早期治療を確実に行うために、*ケース・カンファレンス(以下、症例検討会)の手法が専門家より提案されました。この助言を踏まえ 、2020年3月からの活動では、一次医療施設の医療サービス強化を目的とする症例検討会の実施を計画しています。今回は、1月31日に活動地の「テクニカル・ワークショップ」を視察した際のレポートです。
活動地のフアパン県では、10年ほど前から毎年、ラオスの症例検討会にあたる「テクニカル・ワークショップ」が県病院主催で開催されていました。まずは、現地で行われている症例検討会の概要を把握すること、そして事業内で設定した目的と、現地医療者のニーズやレベルに合致した症例検討会の具体化へ向け助言を得ることを目的に、安藤典子専門家の派遣を実施しました。安藤専門家は、看護師であり、またラオスの保健医療活動に長く携わってきた経験から地域理解に長けています。
ワークショップには、県または郡レベルの医療職員65名が参加しました。県病院からは、よく見られる5例の症例発表とそれに付随する医療知識についての講義がありました。3つの郡病院からは、診断困難など1例ずつ症例発表がありました。「症例発表」としたのは、活発な質問はあったものの、みなで意見交換をして診断や提供した医療サービスの検討をする、という形式ではなかったためです。公の場での率直な議論が珍しいラオスらしさが現れています。うち、世界の医療団が活動対象としている5歳未満児の症例は1例でした。
参加者からは、新しい症例や知識の獲得を期待していること、発表方式から検討会方式への関心、またこのような機会を増やしてほしいとの要望がありました。
安藤専門家からは、医療機関レベル別での開催から始めてはみては、との助言がありました。ヘルスセンター、郡病院、県病院では、知識や経験に開きがあるため、少人数制で意見交換しやすい環境づくりが大切だと考えています。また振り返りの焦点を定めるために、ファシリテーターを育成する準備が有用という意見も出ました。さらに事業終了後も持続していけるように現地で予め決まっている会合とリンクさせた症例検討会を開催する、という提案もありました。
2020年の活動では、上位医療機関搬送に関する連携強化(搬送時の報告の標準化と転帰フィードバックシステムの導入)も計画しています。この症例検討会でも上位医療機関搬送例が含まれていましたが、搬送のタイミングや搬送までの処置、搬送後の診断や転帰については、共有されておらず、下位医療機関では、医療者自身が振り返りをする機会を持ちにくいことが分かります。今回のテクニカル・ワークショップの視察によって、上位医療機関搬送に関する連携強化活動の妥当性を確認できました。
*ケース・カンファレンス(症例検討会)
日本の医療現場でも多く用いられています。治療中の症例に対して、治療や看護方針の再検討、また治療結果(回復、死亡や上位医療機関搬送などの転帰)が分かった症例の一連の経過を並べて、チームで振り返りを行い、治療過程で鍵となったポイントを他の症例へ活かすことを目的としています。直接、症例に関わった人から輪を広げ、一連のデータを見直すことで、客観的視点が加わり新たな気付きを得ることができます。治療中の症例においては、継続的に症例検討を行うことで、患者の変化をタイムリーに共有し、治療を支えるチームが同じ方針で日々の療養支援へ反映させることができます。
チームの設定は、病棟とすることもあれば、振り返りの焦点を定めるため、医師、看護師、リハビリテーションチームなど、専門分野別に行うこともあります。