体の健康維持にしても同様。意識しなくても生活の中にあった活動なのかもしれない。毎日歩いていたはずの駅までの道を、車社会の到来によって歩かなくなる。これが日常の運動量を減らしてしまったがために、週末のジョギングやジム通いが新たな習慣になっていることもあるだろう。
こういったひとそれぞれの日常を取り戻すことが困難な被災地。毎日の生活において、こころと体の健康維持機能が薄れていると言える。
世界の医療団は震災直後から、運動チーム[(財)明治安田厚生事業団 体力医学研究所]と協力し、直接からだにはたらきかけることによるメンタルヘルスにも取り組んでいる。こころの病は脳という臓器の不調(*1)と言われる。運動は脳にも影響を与える(*2)という観点から運動とメンタルヘルスの研究活動を進めている体力医学研究所の運動チームメンバー。彼らの被災地での実践が、いま医療チームとの連携にも繋がりつつある。
今回のレポートは、その運動チームから。
【参考・引用文献】
(*1)http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/pdf/ikiru_tebiki_b5.pdf
「いきるを支える:精神保健と社会的取り組み 相談窓口連携の手引き」(H23.3)
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター
協力:社団法人日本精神保健福祉士協会 日本司法書士会連合会
いきる:自殺予防総合対策センター ホームページ
(*2)http://www.my-zaidan.or.jp/tai-ken/information/mental.html
(財)明治安田厚生事業団 体力医学研究所 ホームページ
運動チームでは、2011年11月から支援活動を再開し、現在は月2回ほど仮設団地の集会所等で活動しています。運動が身体的な健康に良いということは多くの人がご存知ですが、運動が精神的な健康や睡眠、認知機能など、様々な点で効果が実証されていることは意外と知られていません。運動チームでは、運動の持つこれら多くの効果を実感して頂きながら、住民相互のコミュニケーションを図っていこうと考えています。
とはいえ、我々は何か「特別なこと」を行おうというのではなく、日々の生活の中に少しだけ「遊び」や「リラクゼーション」の機会を取り入れていただこうと提案しているに過ぎません。運動は一人でも実行可能ですし、みんなでやると楽しみも増えます。汗をかいた後の食事はおいしく感じられますし、カロリーを消費するのでダイエットにもつながるかもしれません。しかし、運動を実践するとなるとネガティブなイメージ(きつい、つらい、苦手など)を持たれたり、他人との競争という点に注意が向きがちです。我々はそんなイメージを変えつつ、参加者の皆さんが楽しみながら仲良くなれる場を提供していきたいと考えています。
さて、避難所で活動(2011年4〜6月に実施)していた頃とは異なり、仮設団地での活動では「どうすれば多くの方が参加してくれるのか」という課題をこれまで以上に感じています。運動の内容や告知の仕方など、まだまだ手探りの状態で行なっています。それでも、参加した方々から「楽しかった」「気持ちが晴れやかになった」「また参加したい」といった感想を頂くことができていることは、我々にとって大きな励みとなっています。また、大槌町社会福祉協議会の方々やその他多くの方々と一緒に企画を具体化していくことにより、少しずつですが手応えを感じられるようになってきました。これからも試行錯誤しながらの活動とはなりますが、少しでもお役に立てるよう、継続して活動していきたいと思います。
それと、一つ嬉しいご報告があります。我々にとって、避難所でお会いした方々と再会することは秘かな楽しみになっています。先日もどこかでお会いしたな〜と感じた女性がいらっしゃいましたが、すぐには思い出すことができせませんでした。というのは、この方がとても元気で、別人のようになっていたからです。避難所でお会いした時は、極度の緊張のため腰痛が生じ、床に座ることも仰向けに寝ることもできなかった方でした。そんな状態の時にお会いしたのでとても印象に残っていたのですが、この方も我々のことを覚えていて下さり、なんだか嬉しくなってしまいました。我々の活動が少しは貢献できたかな、と感じた瞬間でした。これからも、こんなうれしいことがたくさんあれば良いな〜と思いつつ、現地での活動に励みたいと思います。
世界の医療団 運動チーム
泉水 宏臣
(財)明治安田厚生事業団 体力医学研究所 研究員