東日本大震災:福島そうそう現地医療活動レポート17

私は東日本大震災後世界の医療団「福島そうそうプロジェクト」の一員として、震災の翌春から月に1回「メンタルクリニックなごみ」(相馬市)で外来診療を主として支援活動を続けています。
このクリニックは、震災後崩壊した相双地区(相馬市、南相馬市、相馬郡、双葉郡)の精神医療を立て直すべく、福島県立医科大学神経精神医学講座が中心となって立ち上げたものです。ここに全国から医師が参加しています。

東日本大震災:福島そうそう現地医療活動レポート17
今年は大震災から7年目を迎えます。しかしながら、福島では未だに自死する方が高止まりしている状況です。その背景にはいわゆる「はさみ状格差」(鋏状格差(キョウジョウカクサ)とも言います。)があると言われています。時の経過とともに、次第に立ち直っていく方たちと復興から取り残されていく方たちとの格差があたかも広げたはさみのように次第に広がっています。震災後各地を転々として来られた方、家族と別々に暮らさざるを得ない方、移転した先の地域になじめない方、東電との賠償交渉で疲弊された方、帰還できない方、風評被害に苦しむ方など。クリニックの現地スタッフにお聞きしたところ、通院されている患者様の6割から7割の方々が震災や原発の影響を何らかの形でこうむっているとのことです。

メンタルクリニックなごみの院長(蟻塚氏)と副院長(須藤氏)は東日本大震災に関する共著「3・11と心の災害 福島にみるストレスストレス症候群」(大月書店)の中で「遅発性PTSD(数年の時を経て発症する心的外傷後ストレス障害)」で苦しむ方々がおり、津波のみならず原発・放射能問題を抱える福島にとっては「ポスト・トラウマ」ではなくまさに現在進行形の「イン・トラウマ」であると語っています。
こうした中、私どもが支援活動を行っているNPO「特定非営利活動法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会」では、看護師などのチームが仮設住宅などで引きこもっておられる方々を訪問するアウトリーチをおこなっています。その様子は、先日放映されたNHKスペシャル東日本大震災「それでも、生きようとした~原発事故から5年」で紹介されています。
また、相双地区では世界の医療団によって派遣された看護師、臨床心理士などがアウトリーチやサロン活動を展開しています。福島県川内村では高齢者が暮らしやすい環境づくりに向けて、精神科医が相談会や助言をおこなっています。

平成28年7月、南相馬市小高区が避難指示解除となりました。今後、同様の指示解除が順次実施されていくことが想定されます。帰還を果たした方々にも、震災前とは大きく変わってしまった環境の中での暮らしが待っています。こうした方々に対して、いかにこころの支援を続けていくのかが重要な課題です。

世界の医療団では、精神科医、看護師、臨床心理士、健康運動指導者など多種にわたる専門家が福島の複数の地域で、継続的にこころの支援を続けています。特に精神疾患では、患者様と医療関係者との持続的な人間関係の構築が欠かせません。
福島で展開している世界の医療団の各チームは、今も刻々と状況が変化している福島について情報交換を密にし、支援を点から線、線から面へと広げていく活動を行っています。ことに、家族や地域社会から切り離されて孤立を余儀なくされた方々に対し、必要とされる限り支援を続けてまいります。

福島のこころの問題は過去のものではなく、まさしく現在とそして未来にかかわる問題です。そこに光をあてるために、これからも支援者の皆様の継続的な支援が欠かせません。

精神科医 小綿 一平

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