2010年にスタートした活動は、複数団体がそれぞれの専門性を生かし、ホームレス状態にある人々の医療と福祉の面の支援を行ってきました。世界の医療団は全体のコーディネートを担いながら、医療・保健・福祉につなげる役割を果たしました。月2回の炊き出しの機会には、ボランティアの医師や看護師が医療相談に乗り、毎回90人近くが利用。必要な方は医療機関を紹介し、医薬品を処方してきました。
これらの現場における支援と並行し、困難な状態にある人々の現状を証言し、伝え、根本的な解決を目指して社会のしくみを変えるよう働きかける提言活動(アドボカシー)にも、注力してまいりました。新型コロナウイルス感染症対策の際には、予防接種会も実現することができました。
2023年12月からは、この提言活動により軸足を移し、池袋のみならず、東京、そして日本の医療につながれない人々のために、行政と連携しすべての人々が医療を受けられるよう活動してまいります。
池袋での医療相談会は、これまで運営を担ってきたスタッフに移譲し、現場の状況や声を提言に生かせるよう連携しながら事業を進めていきます。
これまでの事業の歩み
「東京プロジェクト」としてのスタート
TENOHASI(後のプロジェクト・パートナー)が2000年代はじめから続ける支援活動のなか、相談者の多くに生きにくさを抱える方々が見られました。
プロジェクト代表医師の森川すいめい医師(精神科医)らが2008年から2009年にかけて実施した池袋での調査の結果、対象となったホームレス状態にある人々のうちに高い割合で(2008年 調査で4割、2009年調査で6割)何らかの精神症状があり、半数以上に自殺のリスクがあることが判明しました。
日本においては、生活困窮者のための公的支援である生活保護制度があります。生活保護の受給には本人自身が申請をしなければならず、路上に至りそして抜け出すことが困難な様々な理由を区役所や福祉事務所などで説明しなくてはなりません。精神や知的に障害を抱えた方々は、こうした手続きがうまくできず、支援に繋がらないことや何らかの支援を得て繋がった場合でも、その継続には様々な配慮や支援が必要になります。結果、路上での生活を長引かせてしまう方が多かったのです。
この現状から、ホームレス状態にあり、特に精神や知的に障害を抱えた人々の特色に配慮した支援の模索と提供が急務であると判断され、2010年、世界の医療団 日本はTENOHASI、べてぶくろと共に 「東京プロジェクト ~ ホームレス状態の人々の精神と生活向上プロジェクト」を立ち上げました。
ホームレス状態にある人が「障害があっても安心して地域で暮らす」ことができるよう医療や福祉の専門家を始め、この問題に高い関心を寄せる市民ボランティアの協力のもと支援活動を開始しました。
©Maho Harada
複数団体のコンソーシアムへ
ー医療、アドボカシー、コーディネーションを担うー
2010年に池袋にて「東京プロジェクト」として3団体でスタートした事業は、2016年、“ハウジングファースト”支援手法を日本社会においてより強力に推し進めるべく、事業名を「東京プロジェクト」から「ハウジングファースト東京プロジェクト」に改めました。
メンバー団体が常に有機的に関わりあいながら専門性を活かし、日常の業務・活動を行いました。2017年8月現在のメンバー団体は、世界の医療団のほか、TENOHASI、べてぶくろ、訪問看護ステーションKAZOC、つくろい東京ファンド、ゆうりんクリニック、ハビタット・フォー・ヒューマニティの6団体でした。
世界の医療団 日本はアウトリーチ活動(夜回り)への参加や医療相談会を実施するほか、マカロニ(日中活動の拠点)の運営、プロジェクト全体のコーディネートを行いました。また日本でのハウジングファーストの認知度の向上、行政によるハウジングファーストの実現に向けた政策提言活動も行いました。
ハウジングファースト東京プロジェクト構成団体 (2017年8月現在)
世界の医療団
TENOHASI
べてぶくろ
訪問看護ステーション
KAZOC
つくろい東京ファンド
ゆうりんクリニック
活動内容
リハビリプログラム(日中活動)
・居宅へ移ってからの居場所の提供
・料理(献立作りから買い物、調理、会食、片付けまで)、手芸、農業体験、パソコン、カメラなどグループで取り組むことにより対象者の社会性の回復を図る
ファーストアプローチ
・夜回り、炊き出し、医療相談会の場での新たな対象者との接触、関係の構築
ケアマネジメント
・対象者が必要としている支援を個別に見極め、行政や医療につなぐ活動
医療保健活動
・クリニックでの診察、訪問チームによる訪問看護および炊き出しや夜回りでの医療相談
アドボカシー
・行政機関への働きかけ、教育機関、研究機関等での講演など
支援者支援
・能力向上のための勉強会、研修、視察や個別カウンセリングなどを通じた協力者支援
©Kazuo Koishi
ハウジングファーストとは
「ハウジングファースト」とは、住まいを失った人々の支援において、安心して暮らせる住まいを確保することを最優先とする考え方のことです。 1990年代にアメリカで始まったハウジングファースト方式のホームレス支援は、欧米のホームレス支援の現場では一般的になりつつあり、重度の精神障害を抱えるホームレスの方の支援でも有効であることが実証されています。
首都圏で行われている従来のホームレス支援では、「ホームレス状態にある人々、特に精神や知的の障害を持つ人が地域生活を送ることは難しく、居宅に住むための準備期間が必要である」という考え方のもと、一定期間、施設などでの集団生活を経たのちアパート入居をめざす、というステップアップ方式が採用されてきました。しかし実際には、アパートに向けての「階段」をのぼっていく過程において、多くの人がドロップアウトしてしまい、路上生活に戻ってしまうことが問題視されるようになりました。
ハウジングファースト型の支援では、ホームレス状態にある人々に対して無条件でアパートを提供し、精神科医、看護師、ソーシャルワーカー、ピアワーカーなど多職種からなるチームと地域が連携して、その人を支えていくという手法が採られています。調査の結果、ハウジングファースト型支援によって社会的なコストが削減できることも判明しています。
ハウジングファーストが大切にしてきた理念
・住まいは基本的人権
・すべての利用者への敬意と共感
・本人の選択と自己決定
・利用者との繋がり
・地域に分散した住まい、独立したアパート
・住まいと住まい以外の支援を分ける
・リカバリーオリエンテーション
・ハームリダクション
【本事業のスポンサー企業】
・エーツーケア株式会社:自社商品の売上の一部を当プロジェクトのためにご寄付いただいています。
・エドワーズライフサイエンス株式会社:ボランティア活動や衣類の寄贈などの従業員の皆様からのご支援、そしてエドワーズライフサイエンス基金からの助成金によるご支援をいただいています。
©MdM Japon